第十五話 先輩のオゴリ
どうして、ぼくがこんな目にあっているんだ。
と、秀雄は内心ぼやかざるをえない。
なぜならば、行きつけの学生食堂で、目の前に二人の母性を感じさせる女性がいるからだ。
一人は、四十八坂愛花。三年生で生徒会長。夏には引退だ。「公爵」で「白魔女」と呼ばれる類まれなリーダーシップをもつ女子。その大きな胸は、まさに母性の象徴であり、男子の多くがそこへ回帰することを望む。秀雄はむろん例外だ。
そしてもう一人は、愛花のような気品のある顔立ちではないが、人好きのする愛嬌のある顔。だが、胸だけは愛花並みに大きい。水沢くるみだ。
愛花は興味深そうに秀雄を眺めており、くるみはどんよりとテーブルを見ている。
秀雄にとっての救いは、舟見が秀雄の横にいることくらいだ。だが、舟見は舟見で、興味深そうに秀雄とくるみを交互にみている。
愛花が口を開いた。
「学生食堂は高等部からはずいぶん遠いですのに、奇遇なこともあるものです」
そう言うと、愛花はにっこりとくるみに向かって微笑んだ。くるみは、はい、そうですね、と小声でつぶやくが、今にも消えてしまいそうだ。
まあ、約束は破らなかった、のかな。と、秀雄は思った。思い出した約束には、学生食堂で会うということは入っていたが、一人で、という条件は入っていなかったはずだ。
とはいえ、秀雄は生徒会長の圧に押しつぶされているのを見て、さすがにかわいそうに思えてきた。だが、気になるのは、舟見がこの状況をどう解釈するのかということと、愛花の用件だ。さっさと聞いておこう。
「で、四十八坂先輩、ぼくにどんな話があるんです?」
生徒会活動は、内申書の覚えが最もめでたい約束された将来へのプレミアムチケットだ。さっきは生徒会が審査すると言ったが、それは建前で、辞退を迫るつもりだろうか。
「生徒会役員はあきらめてほしいのです」
秀雄は、何も驚かなかった。愛花の次のことばを聞くまでは。
「そこの、舟見くん、でしたか。彼には」
肝心の舟見はきょとんとしている。それはそうだ。舟見は、秀雄を沙代里と引き合わせることだけが目的で、生徒会役員になどなるつもりはなかった。
「大変、申し訳ないのですが……お身内の方にはご遠慮いただけないものか、と。あなたを怒らせたくはありませんので」
そう言うと、愛花はにっこりとほほ笑んだ。
「あの……別にぼくは」
生徒会役員になんてならなくていいんですよ、と秀雄は言いかけたが、途中で考え直した。生徒会役員? 上等じゃないか。よく考えてみれば、ぼくの「夢」にはこういうキャリアが必要じゃないか。自分からは決してなろうとは思わないが、どうしてもやってほしいならやってやらんでもないよ。
「いいのですよ、そんなに謙虚になさらなくても。特特待生が全校選挙で争った前例は確かにありません。生徒会が頼み込む場合がほとんどのようですから。ですが、お身内の方まで、というわけにはいかなくて。いろいろとありますもので」
そう言うと、愛花は目の前の「スーパードゥーパー」パフェにスプーンを差し入れた。それを見て、ようやくくるみは自分の目の前のパフェに手を付けた。秀雄と舟見の前にも、同じパフェがある。四十八坂先輩のオゴリだった。
「どうしても、舟見くんと一緒に生徒会活動がしたいというのであれば、仕方ありませんが……少し、一年八組が騒がしくなるかもしれません」
今は静かなものだが、と秀雄は思った。四十八坂先輩は、クラスの状況を知っているのだろうか?
「今は境川さんを推しているグループがあなたを牽制しているとは聞いていますが、そうなのですか?」
愛花はそう言うと、秀雄を見、舟見を見た。
牽制? あれが牽制、なのか。まあ、クラス全体で無視されれば、やる気のあるヤツならやる気をそがれるかもしれないな。やる気のあるヤツなら。
「ぼくにはよくわかりません」
秀雄はごまかした。実際、境川のあの態度からは、何も読み取れなかった。生理的に受け付けないと言われるほうが、まだ理解可能だった。
「あ、あの……!」
くるみが突然、スプーンを片手に割り込んできた。
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