第十一話 王と騎士
秀雄は、その奇妙な男子をとりあえず自室に入れた。廊下で長々と話すのは、いかにも得策ではない。
「ごめんね。いきなり押し掛けて来て」
そのひょろりとした男子は、あいさつもそこそこに上がり込んできて気を遣うフリをした。
「別にかまわないよ。どうせヒマだから」
黒鳥寮の部屋は、単身世帯用ワンルームマンションくらいの大きさはある。
「ずいぶん生活感のない部屋だね」
秀雄の部屋は常に整理整頓されている。一人暮らしとはいえ、勉強机とそのセットになっている椅子のほかに、丸テーブルとざぶとんくらいはあった。
秀雄は、ざぶとんを一つその男子に勧めた。
「ありがとう。ぼくは舟見城士(ふなみ じょうじ)。一応、これでも『
「『騎士』、ねぇ。聞いたことはあるけど」
秀雄の顔には関心がないという様子がありありと浮かんだ。舟見は少したじろいだようだった。
「はは。さすが
秀雄はようやく興味ありげに眉を上げた。
「『王』ってのは誰のこと?」
「またまたトボケちゃって。日野原くんのことに決まってるじゃないか。特特待生の」
秀雄の眉が下がった。なんだそんなことか。
「まあ、隠してはないけどね。自分からは言わないことにしてる。でも、『王』っていうだなんて初耳だけど」
舟見は、頭を少し掻いた。
「『王』っていうかどうかはぼくも知らないけど。でも、貴族どもを怒らせ、いや、震え上がらせるのは、たいてい『王』じゃないか」
「貴族ども、ね。『子爵』なら少し知ってる」
秀雄と同じクラス一年八組の比留田と、別のクラスの朝居まおとは、高校専用食堂で顔を合わせたことがあった。
「比留田くんのことかな。彼みたいな小物はチェックしてないけど」
舟見は思わせぶりな言い方をした。
「ぼくが『王』なんだったら、きみはその『王』のぼくに何の用なんだい?」
秀雄は、舟見がもってきたはずの情報に少し興味が出てきた。仮にも「子爵」を「小物」というからには、より上の存在の面白い情報をもってきているはずだ。
「ぼくだって、クラスがいつまでもこんな雰囲気っていうのは嫌なんだ。空気がおかしいと、ぼくみたいな影の薄い根暗なヤツにもいつ矛先が向けられるかわかったもんじゃない」
舟見は自己分析を冷静にできるタイプのようだ。秀雄は少し共感を覚えた。
「どうやったかは言えないんだけど、きみを無視するように呼び掛けたSNSの作成者は、たぶん、境川沙代里さんだ」
「あー、あの」
あの、と言ってもその先が続かない。クラスメイトで唯一、秀雄が性的な関心をもつ美少女、境川沙代里が黒幕とは。秀雄は声を失った。
「境川さんは『公爵』だよ。あのSNSできみを無視するようにメッセージを発信した人物を追っていたら、境川さんの親戚の名前が浮かび上がってきたんだ」
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