第183話 ウィルvs教皇その2

 俺は特製の魔力弾を一発撃ち込む。

 各種属性を少しずつ混合させた魔力弾だ。その効果をみて、どの属性がいま効くのか判断するためだ。

 通用する属性を見極めて土の槍で教皇を貫く。


 右腕が、怪しげに動いた。すかさずルンルンが噛みつく。

 恐らく眷族を呼び出そうとしたのだろう。それをルンルンが防いだのだ。


「ぐぅ」

 うめきながら、教皇は左手を少し動かした。

 右腕に噛みつくルンルン目がけて金色の炎が襲いかかる。


「ピギ!」

 その炎をフルフルが完全に防いだ。


「このケダモノどもが!」

「俺と仲間たちで、すぐに殺してやるよ」


 俺は土属性の攻撃で教皇を追い詰めていく。


 だがすぐに土属性が効かなくなった。

 そのたびに特殊な魔力弾を撃ち込んで、効果のある属性を見つけて攻撃する。

 そして教皇は痛烈な魔法で俺を、そしてアルティたちを攻撃してくる。


 何度も効果のある攻撃を繰り返しても、そのたびにすぐ属性を変えられてしまう。

 そして何匹も何匹も眷族を産みだしてくる。


『きりが無い! こいつは無敵なの?』

『そんなわけないわ』


 ロゼッタとティーナは、そろそろ体力と魔力の限界かも知れない。

 眷族を斬り刻み続けているアルティも、けして余裕ではない。

 だが、三人ともけして表情にも仕草にも表さない。

 余裕たっぷりに見えるように立ち回っていた。


 シロもアルティを助けて、強力な頭突きで眷族を攻撃している。


 ルンルンとフルフルのコンビも素晴らしい動きだ。

 ルンルンとフルフルの活躍がなければ、教皇が放つ魔法や生み出される眷族の数が倍になっただろう。


「ウィル・ヴォルムス! 羽虫のようにうろちょろと!」

 先にしびれを切らしたのは教皇だった。


「どうした。そんな疲れ切った顔をして」


 教皇は強い。だが、戦闘経験が乏しく駆け引きが苦手なのだろう。

 疲れていることを隠そうとすらしない。


「まとめて吹き飛ばしてくれるわ!」


 そう言った瞬間、教皇の頭と両腕の周囲にあった金色の靄がうすくなる。

 生み出されていた眷族五匹も靄に変化し、教皇に吸収されていく。

 学院全体を覆う結界からも魔力を吸っているようだ。


 同時に、両腕に魔力が集中した。強烈な魔法攻撃の前触れだ。


『ティーナ! 防御に専念してくれ!』


 ティーナが返事するまもなく、教皇を中心に白い炎の渦が生まれる。

 夜だというのに、昼間のように明るくなる。


「死ねええええええ!」


 その白い炎の渦は竜巻のように変化していく。

 白い炎の竜巻はあまりにも熱いため、ふれもしていないのに近くの樹木が発火した。


 非常にまずい。近くにはサリアたちのいる託児所があるのだ。

 白い炎の竜巻が建物を撫でれば、破壊されなくとも中は人が生きていられないほど高温になりかねない。


 だから、俺は絶対零度アブソリュート・ゼロの魔法を全力でぶつける。

 威力の調整をする余裕もない。全力でぶつけてなんとかなるかどうかだ。

 魔力の節約などしている場合ではない。俺の魔力を全部つぎ込んでもまかなえるかどうかだ。


「フィー!」

「わかってる!」


 神霊フィーが、膨大な魔力を融通してくれる。

 それでも余裕はない。


 俺の絶対零度と教皇の白き炎の竜巻がぶつかる。

 俺も全力だが、白き炎の竜巻を押さえ込むことは難しかった。


 アルティやロゼッタを魔法でかばう余裕もないが、ティーナが魔法障壁を展開してかばってくれている。


 俺と教皇の魔法がぶつかり合い互角で推移しているさなか、

「ウォオオオオオオオオオオオォォォォン!」

 ルンルンが遠吠えした。


 ルンルンの吠え声が波動となって、周囲に拡散していく。

 そしてルンルンの吠え声は、薄くなった学院を包む結界の一部を破壊した。


 その破壊した場所は、上空の目立たない部分だった。

 だが、結界の破れた場所から

「キュルルルルル!」

 ルーベウムが現われる。

 ルーベウムは急降下しながら、強烈な氷属性の魔力弾を口から吐いて教皇にぶつけてくれた。

 空を飛びながら、ルーベウムは魔力弾をぶつけ続ける。


「トカゲ風情が、我の邪魔をするな!」


 教皇は激昂するが、ルーベウムに攻撃する余裕はない。

 ルーベウムの氷の魔力弾の援護のおかげで、徐々に俺の絶対零度が、教皇の白き炎の竜巻を押しつぶしていく。


 そんな中、こぶし大の魔力弾がふわふわとゆっくり飛んでいく。

 俺の絶対零度も、教皇の白き炎の竜巻も、かまわず飛び続ける。


「な、なんだそれは!」


 その魔力弾を見た教皇は少しおびえたようだった。

 だが、俺の絶対零度とギリギリの押し合いをしているので、身体を動かすことが出来ないのだ。


 魔力弾ゆっくりと飛び、教皇の額に当たる。

 そして止まらずに、そのまま進み、綺麗に真円の穴が教皇の額に空いた。


「メエエエエ!」

 シロの放った魔力弾だ。


 そして額に穴の空いたことで、教皇の操る白き炎の竜巻の威力が格段に落ちた。

 俺の絶対零度が白き炎の竜巻を飲み込み、教皇を氷漬けにした。

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