第182話 ウィルvs教皇

「ならばこれでどうだ!」

 俺は魔人の正体を確かめるために短刀で斬りかかる。


「首が飛べば、止まるだろう?」


 俺は魔人の首を刎ねとばして確かめる。

 やはり、首を落とされた魔人は死ぬようだった。


『耐久力は並の魔人より下だ!』

『でも矢が刺さっても動きが変わらなかったよ』

『それは痛み感じていないだけだろうさ』


 教皇は痛覚の無い状態で、生み出したようだ。使い捨てする分にはその方が便利なのだろう。


『耐久力が無いなら、脅威ではないです。ウィルは教皇を』

 そう言ったアルティは魔人の首をすでに二つ落としていた。


『任せろ!』

 俺は教皇へと突っ込む。


 俺の短刀を教皇はどこからか取り出した左手に持つ錫杖で防ぐ。


「ガウウウウ!」

 俺のすぐ後ろを付いてきたルンルンが、その瞬間に左手に噛みついた。


「ぐぅ! この犬めが!」

 教皇がひるんだ瞬間、俺は短刀で左手を斬り落す。


「いくら斬り落そうと無駄だ!」


 斬り落し、ルンルンに噛まれたままの左腕が金色の靄になって消える。

 そしてすぐに再生した。


 教皇の笑みは消えていない。まだ余裕だと言いたいのだろう。


 そして、右手を再び振り上げた。

 今度はテイネブリスの尻尾が生み出された。


『眷族まで!』

『安心しろ。魔人と同じように、並の眷族よりは弱いはずだ』


 そうは言っても眷族は非常に強い。

 厄介な相手には変わりない。


「我にかかりきりでいいのか? ウィル・ヴォルムス。お前の仲間はお前ほど強くはないのだろう?」

 眷族にアルティたちを攻撃させて、俺の集中を削ごうと言うのだろう。


「俺の仲間は強い。お前が心配してもらう必要は無い」

「そうだと良いがな」

 教皇は馬鹿にするように鼻で笑った。


「だああああ!」

 そのとき、ティーナがわざと大きな声を出して、教皇に風の魔法をたたき込む。

 それを教皇は防ぐそぶりも見せず、身体で受けた。

 全く効いていない。


 テイネブリス本体と同様、有効な属性が刻々と変わるのだろう。

 非常に厄介な能力だ。


「我に風の魔法は通じませんよ」

「それはどうかしらね!」

「好きなだけ試せばよかろう!」


 ティーナは再び風の魔法を準備する。先ほどよりも威力の大きな魔法だ。


「だあああああああ!」

「だから無駄だと……」


 ティーナの放った魔法は、教皇へと向かい、直前で三つに分かれて、二匹の魔人眷族にぶち当たる。

 同時に風の刃で三匹を斬り刻んでいく。


 傷だらけになった二匹の魔人は、一瞬でアルティに首を刎ねられる。

 そして、眷族にはシロが強烈な頭突きを食らわせた。


 今のシロは体高三メートルだ。その上頭に角が生えている。

 その角が眷族に突き刺さると同時に、シロは角から魔力弾を撃ち込んだ。


「GAAAA」

 断末魔の悲鳴を上げて眷族は息絶える。


「自分を狙うと思ったのかしら? 馬鹿なの?」


 ティーナは露骨に馬鹿にした態度を取っている。

 教皇の俺に対する集中をそごうとしてきているのだ。


「……貴様」

 教皇は、一瞬俺から視線を切った。その隙を俺は見逃さない。

 俺は教皇の首を刎ねる。


「よそ見するからだ。間抜け」

「……ウィル・ヴォルムス!」


 首だけになったというのに、教皇が叫ぶ。


「どこから声を出してるんだよ」


 俺は教皇の胴体を短刀で横に斬り裂いた。

 胸より上の部分だけで、教皇はまだ動く。右手を動かし眷族を立て続けに三匹呼び出す。



 そして下半身と腹の部分は金色の靄になった。続けて胸の部分も靄になる。

 今の教皇は頭と両腕だけが、金色の靄でつながり、宙に浮いている状態だ。

 身体の大部分を靄にすることで、刃物を使いにくくしたのだ。

 面倒なことを考えるものである。


「我が首を落とすとは、なかなかやるではないか」

「……化け物が」


 俺の言葉に、教皇は嬉しそうに笑うと、左手に握る錫杖を振るう。

 すると、雷が立て続けに十発落ちた。


 アルティ、ロゼッタは巧みな動きで雷をかわし、ティーナは障壁で雷を防ぎきる。


『どうなっているのかしら!』

『とりあえず、眷族を倒してくれ』

『わかりました』


 アルティが眷族に斬りかかる。シロが蹄と角で攻撃する。

 同時にロゼッタが眷族に向かって矢を射た。

 一発ではない。リズミカルに三匹の眷族に次々と突き刺さっていく。

 矢が突き刺さると、その部分から金色の靄が吹き出した。

 どうやら、ロゼッタ放つ矢には、ロゼッタの魔力、もっと言えば狩猟神の加護が乗っているようだった。


 そして、眷族の苛烈な攻撃はティーナが魔法で完全に防いでいく。

 眷族にどの属性が通じるのか、まだわからない。だから防御に徹することにしたようだ。

 三人とも非常に的確な判断だ。眷族三匹は三人とシロに任せればいいだろう。


「教皇。首をおとされたんだ。そろそろ死ね」

「我を殺せるものなら殺してみよ!」

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