第161話 教団の刺客

 上空にいるルーベウムは詳細に報告してくれる。

 敵は七部隊。樹海の周囲からバラバラに近寄ってきていると言う。

 そしてその中の一つが、明らかに他より強いらしい。


 その強いのがジェマを狙う本隊だろう。

 おそらく他の七部隊が生徒を狙い、ジェマが対応に動くことで隙が生じるのを窺っているのだろう。

 そして好機と見たら、一気にジェマを殺しに動くに違いない。


 敵の作戦の核はその一つだけ強い部隊だろう。

 本格的に動き出す前に、その要の部隊を叩くことができれば、敵の作戦はとん挫する。


「ルーベウム。でかした。その強い奴を潰しにいく」

『位置を教えるね。きゅるー』


 上空に陣取り、全体を俯瞰しているルーベウムが、細かく敵の場所を教えてくれる。


「ありがとう。ルーベウム。すぐに向かう」

『きゅるー』


 俺が走り出すと、ジェマも各地に指示を出しながらついて来る。

 教員二名と助手五名に命じて、対応させるのだろう。


「アルティ、ティーナ、ロゼッタは少し後方からついてきてくれ。奇襲は少人数の方がいいからな」

「わ、わかりましたわ」

「うん、了解したよ」

「わかりました」


 三人は素直に同意してくれた。

 俺はルーベウムから気配消しの技術を教えてもらった。

 そしてジェマも、ルーベウムの気配消しの技術を、ディオンあたりを経由して教えてもらっているはずだ。


 ティーナたちもゼノビア経由で学んでいるはずだが、ジェマほどうまく気配を消せるわけではない。

 ぞろぞろと全員で近寄いていけば、敵に気付かれる可能性が高まってしまう。


 だから、俺はジェマと、シロ、フルフル、フィーとだけで走っていった。

 フルフルは俺の肩の上に、フィーは懐の中に入っている。

 そしてシロは俺の後ろをぴょんぴょん元気に跳ねるように走ってついて来ていた。


「フルフルたち、気配消すの上手いな」

 フルフルもシロも、フィーも気配を見事に消している。


「ぴぎ」「め」「当然でしょ」

 神獣たちと神霊はどや顔していた。


「そうか。当然か」

「ルーベウムが教えてくれたし」

「ほう」


 元々、神の眷族同士ということで、互いに相性はいいのだろう。

 それに神の眷族ということで、当然ながらフルフルたちもみな基礎能力は非常に高い。

 俺がティーナたちと訓練しているとき、昼寝しているときなどに神獣・神霊同士で教え合ったりしているのだろう。


「みんな向上心が高いな」

「ぴぃ」「め!」「ふふん!」


 どや顔のシロたちと一緒に、ルーベウムの教えてくれた方向へと走る。

 走りながらも俺は気配を探っていく。それもルーベウムから教えてもらった技術だ。


 雨足が激しくなっていく。大きな雨音のせいで耳を使った探索は難しい。

 夜の暗闇のせいで、目に頼った探索も難しい。


 だから俺は暗視の魔法を自分にかける。

 途端に、周囲の状況を目で見ることができるようになった。


「ジェマ先生、暗視の魔法かけましょうか?」

「お、いいのか?」

「お安い御用です」


 俺はジェマに暗視の魔法をかける。


「おお、良く見えるようになった。素晴らしいな」

「お役に立てたのならなによりですよ」


 さらにしばらく走ると、生徒たちが戦っている様子が見えた。

 四名の生徒たちと、八名の暗殺者たちだ。


「隊列は乱さないで!」

「ヒーラを守れ!」


 生徒たちの近くにはボロボロになったテントが転がっている。

 恐らくテントの中にいたところを襲われたに違いない。


 一人が大きめの怪我を負い、それをヒーラーが治療中だ。

 そして、前衛二人がそのヒーラーと負傷者をかばうように立っていた。


『ジェマ先生、本命は別にいます』

 俺は念話を使って、ジェマに話しかける。


『わかっているっ!』

 ジェマは戸惑うことなく、念話を使いこなして返事をした。


『あの程度なら、助手先生が対応できるでしょう』

『それもわかっているっ』


 ジェマはギリっと歯噛みした。

 生徒がいたぶられているのだ。今すぐに出て行って、敵を蹴散らし、守りたいに違いない。

 ジェマは熱い心の持ち主のようだが、冷静でもあるようだった。


 周囲に目を配り、助手の位置を確認している。


『助手のやつ、どこ行った?』

 苛立たし気にジェマがつぶやく。


『他の班を助けに行ったのかもしれませんね』


 他の班にも襲撃を受けている頃かもしれない。

 いま俺たちがここに来たのは、本命部隊に一番近い班だったからだ。


 助手のいない班を襲えば、容易に窮地に陥る。

 そうなれば、ジェマが助けに行くしかない。そういう作戦だろうか。


『なら、私に報告をしてから移動するべきだろう?』

『そうかもしれませんね』

『後で説教だな』


 俺も冷静に敵を観察する。


 生徒たちを襲っている教団の刺客は人間だ。

 俺がティーナに初めて出会った時、倒した奴らと同じである。

 恐らくテイネブリス教団の基本的な暗殺部隊なのだろう。


 つまり、才能あふれる学院の生徒とはいえ、一年生には難しい相手ということだ。

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