第143話 気配に関する技能の習得

 魔法ではなく、魔力を使ってルーベウムの位置を探り始めて十分後。

 俺はやっと気配を消したルーベウムの「何もないがある」という状態に気づけた。


「レジーナたちの言っている意味が分かったかもしれない」

「さすが師匠」

「ウィルすごいー。きゅるるる」


 レジーナとルーベウムが褒めてくれた。


 その後、わかった感覚をディオンとミルトにも教える。

 すると、さらにニ十分ほどかけて、ディオンとミルトもルーベウムに気づけるようになった。


「これで、ルーちゃんが隠れても見つけられるね!」

「ううん。るーが本気で隠れたら、もっとすごい。きゅる」


 そういって、ルーベウムはさらに気配を隠した。

 こうなると、「何もないがある」も見つけることがとても難しくなった。


「ルーベウム、本当にすごいな」

「きゅるるるる」


 ルーベウムは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 そんなルーベウムにディオンが頭を下げた。


「ルーベウム。ありがとうございます」

「いいよ。きゅる」

「続けて気配の隠し方なのですが……」

「いいよ、見せてあげるね。きゅる」


 先ほどのようにルーベウムは気配を消す。

 それを今度は見つけることではなく、気配を消す術理に注目して観察した。

 ルーベウムもわかりやすいようにゆっくり見せてくれる。


「……簡単にやってるけど、本当にすごいな」


 竜神の使徒、眷族の特殊能力なのでは?

 そう思えるほど、ルーベウムの能力は凄い。


「きゅる」

「まあ、ルーベウムと同じことをするのは難しかろうが……。参考にはできるはずだ」

「師匠のおっしゃる通りですね」


 ディオンは真剣な表情で、ルーベウムを観察している。

 ディオンは諜報部門の責任者だ。

 ルーベウムの技術をどのくらい体系化できるかで、諜報部門の者たちの生存率が変わる。

 そして、それは今後の戦局に大きく影響するだろう。


 俺はしっかりと観察した後、ルーベウムのやっていることを真似た。

「つまりこういう感じかな」


 まずは魔力自体を吸収し反射させないようにする。これだけで相当な隠蔽効果だ。

 同時に、周囲の魔力に自分の波長を合わせるのだ。

 周囲に同化させるのはレジーナが特にうまい。

 弟子たちクラスならば無意識でやっているが、それの高度なものがルーベウムの技術だ。


「すごいですね。師匠。ルーベウム殿並みに気づきにくいですよ」

「ミルト、探索で俺を探してくれないか?」

「わかりました」


 しばらく探索したあと、ミルトが言う。


「本当に発見できません。こんなに近いのに。目で見えているのに」

「おれも見えるのに全く気配を感じないよ。怖い」


 そういいながら、レジーナはゆっくりと俺に近づいて来る。


「俺は竜神の使徒ではないが、竜神の弟子ではあるからな。真似しやすいのかも――」


 そこまで言ったところで、なぜかレジーナに正面からぎゅっと抱きしめられた。


「どした? レジーナ」

「ちょっと、存在を感じたくなって」

「おい、師匠に甘えるな!」


 ゼノビアの鼻息が荒い。

 俺の存在が希薄になり、感じ取れずに寂しくなったのだろう。

 実際に触れてみたくなる気持ちもわからないでもない。


「きゅるー」

 そこにルーベウムが飛んできて、横から俺の顔面に抱きついてきた。


「どした? ルーベウム」

「きゅるるる。ウィル見つけるの大変」

「そっか。ルーベウムが見つけるのが大変なら、充分な技術だな」


 そんなことを話していると、ディオンが真剣な表情で言う。


「師匠。こつなどがあれば、教えていただけませんか?」

「もちろんだ」


 俺はレジーナを離しながら少し考える。

 すると、ルーベウムがもぞもぞと俺の顔面の正面に回って来た。

 まあ、気にしなくてもいいだろう。

 俺は解説を始める。


「まあ、実は理屈自体はあまり難しくないんだ」

「えー。うそだぁ。師匠だから簡単なだけでしょ?」

「誤解するな。レジーナ。実際にやるのは難しいが、理屈は簡単って意味だ」

「そうなのかい?」

「ああ。周囲に気配を同化させるってのはわかるだろう?」

「うん」


 実際はそれが一番難しい。

 だが、弟子たちクラスになると、そのぐらいはすでにできている。


「そこから、もう一歩進めて、ふんわり受け止める感じだ」

「うん?」


 探査をかけられたとき、その魔力を吸収するというのは特殊能力の部類に入る。

 竜神の使徒、眷族であるルーベウムや、竜神の弟子である俺だからできる技術だ。


 だが、弟子たちなら真似事ならできなくもないだろう。


「具体的にはだな……」


 俺は手取足取り、弟子たちに教えていく。

 感覚的な要素が多いので、弟子たちそれぞれに合わせて教えるのだ。

 昔を思い出して、とても懐かしい気持ちになった。


 俺が教えている間、ルーベウムは俺の真似をしてドゥラに教えていた。

 ドゥラは感動に身を震わせながら、教わっている。


 弟子たちは何とか気配を消すコツを身に着けるまで数時間かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る