第45話 総長室へ

 朝ご飯を食べていたサリアが元気に言った。


「あるねえちゃん、おはよ!」

「サリア、おはようございます」

「あるねえちゃんもおむれつたべる?」

「ありがとうございます。私はもうお腹いっぱい食べましたから」

「そっかー」


 サリアはアルティがお腹を空かせていないことを知って安心したようだ。


 アルティはサリアの隣の椅子に腰を下ろす。

 朝ご飯を食べ終わったルンルンがアルティのひざに顎を乗せにいった。


 アルティが「えへへ」と微笑みながらルンルンの頭をやさしく撫でる。

 初めて会った日にも思ったことだが、アルティはどうやら犬が好きなようだ。


 そして、フルフルはテーブルの上にあがると、サリアのこぼした食べ屑を回収していた。

 仕事熱心なスライムである。


「ふるふる、これたべる?」

 サリアはフルフルにスプーンに乗せたオムレツを近づける。

 フルフルがお腹すかせているのではないかと心配したのだろう。


「それはサリアが食べなさい。フルフルはご飯をちゃんと食べたからね」

「ぴぎ」

 俺の言葉への同意を示すために、フルフルはプルプルしていた。

 その様子を見て、サリアは安心したようだ。食事を再開する。


「ゆっくり食べなさい」

「あい!」


 なるべく急いで総長室に来るようにという指示だったが、アルティは急かさずに待ってくれる。

 本当に緊急なら、ゼノビアが直接俺の部屋に尋ねてくるか、腕輪で連絡してくるだろう。

 だから、俺もゆっくりしているのだ。

 なによりサリアがおいしく朝ご飯を食べているのに、急かしたくない。


 なので、俺はフルフルのすごいところをアルティに説明することにした。


「そういえば、さっき言いかけたことだがな」

「はい」


 俺はフルフルがシロのこぼしたミルクや、ミルクを拭いた布を綺麗にしたことを語る。


「それは……すごいですね」

「そうなんだ」

「ぴぃぎ!」


 フルフルも誇らしげだ。

 少し考えてアルティが言う。


「長期の冒険の際など、お洗濯できないことやお風呂に入れないことは多いですから」

「……なるほど。フルフルに頼めば清潔さを保てるかもしれないな」

「フルフルが嫌がるかもしれませんが」

「ぴぎぃ!」

「フルフルは別に嫌じゃないと言っているよ」

「そうなのですか? それなら良かったです」


 そして、サリアが朝ご飯を食べ終わるのを待って、一旦自室へと戻る。

 本格的に託児所へ行く準備を済ませ、送っていく。

 今日もルンルンはサリアと一緒だ。


 その後、俺はアルティと一緒に総長室へと向かう。

 入り口でアルティは止まった。


「む? 一緒に入らないのか?」

「はい。お師さまからはウィルだけを連れてこいと言われています」

「そうなのか。手間をかけた」

「お気になさらず」


 アルティと別れて、俺が総長室にシロとフルフルと一緒に入ると、ゼノビアとミルトがいた。


「お待たせいたしました。色々と準備がありまして」

「気にしなくともよい。よく来た。座りなさい」


 ゼノビアが優しく勧めてくるので俺は長椅子に座った。

 フルフルは俺の横にふよんと座り、シロは俺のひざの上にすくっと立つ。


「俺をお呼びとお聞きしましたが御用は何でしょうか?」

「ウィル。いや師匠。改めて昨日の戦いについて詳しい話を聞かせてください」


 そう言ったのはミルトだ。調査に必要な聴取なのだろう。

 だが、急に口調が改まったのは少し気になる。


「あ、お茶をご用意させていただきますね」

「お構いなく」


 ゼノビアがお茶を淹れに奥へと言った。

 それを見送ってから俺は尋ねる。


「二人とも急に口調が変わったが、どうしたんだ?」

「いや、俺たちの中でもいろいろとありまして」

「ふむ?」


 なにやらミルトとゼノビアは、はっきりとした基準を作ったようだ。

 俺をエデルファスと知っている者しかいないときは、師匠として接することにしたようだ。

 これから俺のエデルファスの力や知識に頼ることも多くなる。

 だからそうした方が良い。そう、昨夜一晩考えて決めたらしい。


 それは構わないが、昨夜一晩考えるようなことでもないと思う。


「適当でいい。俺がエデルファスの生まれ変わりと知られなければ良いだけだから」

「そういうわけには行きません」


 どうやらミルトもゼノビアもお堅いらしい。

 最高権力者としては、好ましい性格だ。

 本当に立派に育ったものだ。俺はすごく嬉しい。


「で、昨日おおまかには話したはずだが、詳しく聞きたいのはどのあたりだ?」

「獣の眷族と、厄災の獣の違いについてです。師匠が気付いたことを教えてください」

「……そうだな」


 俺は頭を整理しながら話していく。


「眷族戦で最も楽に感じたのは、やはり属性魔法の使いやすさだな」


 魔王である厄災の獣テイネブリスには一属性の魔法しか効果がなかった。

 しかも効く属性は刻々と変化した。だから非常に厄介だったのだ。

 だが、獣の眷族には水属性魔法がずっと効いた。


「ミルト。獣の眷族には水属性が効きやすいとかあるのか?」

「いえ、今までの報告によると、効果のある属性魔法はバラバラですね」


 つまり獣の眷族と戦う際は、最初に効果のある属性を探さなければいけないようだ。

 だが、その後は変わらない。それだけでだいぶ楽だ。


「師匠はコアを破壊したと昨日おっしゃっていましたが……」

「眷族が俺の水球を飲み込んだからな。運が良かった」


 御曹司に使った技をそのまま使えた。

 獣の眷族を倒した具体的な方法を説明すると、ミルトはため息をつく。


「幼い姿になっても、さすがは師匠。恐ろしい魔力ですね」

「そうか? 前世に比べたらまだまだだ」

「俺ならともかく、救世機関のほとんどの魔導師には無理でしょう」

「俺にも難しいよ。アルティやシロ、フルフルが攻撃し続けてくれたからできただけだ」


 アルティたちのおかげで、獣の眷族は回復に魔力を回さなければならなくなった。

 だから、八歳の俺でも支配し続けることが出来ただけだ。


 一通り昨日の戦闘について説明し終わると、

「師匠。お願いとご相談があるのですが」

 ミルトが畏まってそう言った。

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