第29話 ガイダンス

 次の日。俺たちは入学式が行われる会場に来ていた。

 勇者の学院には式典向けの建物が、本館と別にあるようだ。


 サリアは家族用の席の方に、ルンルンと一緒に座っている。

 ルンルンを付けたとはいえ、三歳児のサリアを一人にするのは気が引ける。

 何かあれば俺がすぐに駆け付ける必要があるだろう。


 俺は他の新入生たちの顔を見る。三十人の新入生たちが誇らしげに胸を張っていた。

 特に年長の者ほど嬉しそうだ。感極まって涙を流している者すらいた。

 それほど努力して合格を勝ち取ったのだろう。


 ティーナの姿を探してみると一番前の席、中央で背筋を伸ばして座っていた。


 しばらく待っていると来賓が入場してくる。

 学院のあるバリドア王国の国王は当然参列している。

 それどころか他国の王族や至高神の大司教など錚々そうそうたる顔ぶれだ。


 入学許可宣言のあと、入学生総代の宣誓に移る。

 今年の入学生総代はティーナだった。


 歴史あるイルマディ皇国の皇女にして、ディオンの直弟子なのだ。

 ふさわしい人選と言えるだろう。


 ティーナは緊張しているようだったが、立派に宣誓の言葉を述べた。


 その後、総長ゼノビアの式辞、来賓を代表して国王の式辞と続く。

 最後に学生代表の式辞があって、式は終わった。


 それから場所を移して学生生活についての説明を受けることになった。

 俺は引率の講師に言う。


「幼い妹を一人で家族席に残しているので、一緒に連れてきていいですか?」

「うむ、構わぬ。他に同様の事情があるものは行ってきなさい」


 俺と同じ事情を持つものは、他に一人いたようだ。

 栗色の短めな髪の女の子だ。尻尾と獣耳があるので獣人だろう。


「ウィルくんが言いだしてくれて助かったよ、ありがとう」

「気にしないでくれ。というか、なぜ俺の名を?」

「決闘してたでしょう? あのとき先生が名前呼んでたし」

「そういえばそうか」

「あたしはロゼッタっていうの、よろしくね」

「こちらこそよろしく頼む」


 家族席に行くと、サリアはルンルンの背に乗って大人しくしていた。


「あにちゃ!」

「サリア、いい子にしてて偉いぞ」

「えへへへ」

 俺はサリアの頭をやさしく撫でた。


「ルンルンもな」

「ゎぅ」

 ルンルンは気を使って、小さな声で鳴く。

 頭を撫でてやると、尻尾をぶんぶんと振った。


 ロゼッタの家族は五、六歳ぐらいの小さな女の子だった。

 ロゼッタの妹も、かわいらしい獣耳と尻尾が生えていた。


 サリアとロゼッタの妹を連れて、俺とロゼッタは教室へと急いだ。


 俺たちを待ってくれていた教員から学院生活の説明が始まった。

 学期末の試験に合格すれば、単位が与えられる。規定数の単位を取得すれば卒業できる。

 そして授業への出席は成績に加味されない。


「愚直にやることは美徳かもしれない。だが成績は文字通り成績なのだ」


 試験の時点で何ができるのか、何を知っているかだけで判断される。

 まじめにやっていても、個人の得手不得手才覚によっては出来るようにならないかもしれない。

 その場合は、違う科目で単位を取るか、来期また頑張るかだ。


「卒業年限の十二年まで、何度でも同じ授業をとっても良い。自分で考えて選択するように」


 最短で四年。最長で十二年在学できるようだ。自分のペースで授業を受けられるのはよい。


 その後、週に一度のホームルームには出席するようにと念を押される。

 そこで重要な注意事項や連絡事項が発表されるかららしい。

 それに全員参加の実習は年に数回あるとのことだった。


 基本的には自由度の高い学校のようだ。前世で通った賢者の学院より自由度が高い。

 俺に合っている気がする。


 緊張している新入生に向けて講師は笑顔を向けた。

 卒業すれば救世機関に入れなくとも、引く手は数多。あらゆる場所で活躍出来るだろう。

 最後にそのような明るい未来を語って、ガイダンスは終了した。



 講師が教室を出ていくと、年長の学生が全員に向けて言う。


「折角同級生になったんだ。これから食堂で親睦会でもしないか?」


 次々と賛成の声が上がる。

 サリアもいるしどうしようか考えていると、年長の学生は俺の方を見た。


「ウィル・ヴォルムスはどうする?」

 やはりフルネームを覚えられていたようだ。決闘のせいだろう。


「サリア、どうする?」

「いくー」「ゎぅ」(ぴぎっ)


 サリアとルンルンたちが行ってもいいのなら、今後のためにも参加しておくべきだろう。

 だから、年長の学生に笑顔で言う。


「そうだな、妹と、従魔と一緒でいいなら行かせてもらおう」

「あ、あたしも妹と一緒でいいなら行くよ!」

 ロゼッタも言う。


「もちろんだ。妹さんたちも歓迎だ」

「じゃあ、参加させてもらおう」

「あたしも!」


 その日は新入生三十人全員で食堂に行って、自己紹介を済ませ交流したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る