第14話 入学試験の朝

 守護神の寵愛値の測定をした次の日。

 俺はサリアとルンルンとフルフルと一緒のベッドで目を覚ました。

 もう少し寝ていたかったのだが、ルンルンが顔をべろべろ舐めてくるので仕方ない。


「あにちゃ! おはよう!」

「わふわふぅ!」

「サリア。おはよう。ルンルンも起こしてくれてありがと」

「わふ」

 ルンルンはどや顔になり、胸を張って尻尾を振った。


「あにちゃ! おなかすいた!」

「わふ!」

「ぴぎぃ! ぴぎぃ!」

「そうか、サリアもルンルンもフルフルもお腹がすいたか。じゃあ食堂に行こうか」

「うん!」

「わふぅ!」

「ぴぎっ!」


 サリアは勇者の学院、その食堂のご飯を気に入ったようだ。

 味もよく、栄養バランスに優れ、お代わり自由なのだ。

 サリアが気に入るのもよくわかる。

 ルンルンもフルフルも昨日もらった従魔用の餌を気に入ったようだ。


「でも、ひろいのに、ぜんぜんひといなかったね!」

「そうだな。勇者の学院の生徒は実地研修でみんな外にいるらしい」

「そうなんだ!」

「もし、俺が勇者の学院の生徒になったら……」

「あにちゃなら、なれるよ!」

「ありがとう、サリア。でもな、そうなったら学院を留守にすることも少なくないんだって」


 魔獣との戦いを実戦的に学ぶには、学院の外に行かねばならない。

 場所によっては一泊や二泊では済まない場合もあるだろう。その間サリアは学院でお留守番だ。

 本当は連れて行ってあげられたらいいのだが……。


「……さりあは、だいじょうぶだよ! るすばんできる!」

「そうか、偉いな」

「えへへ!」


 サリアは笑顔でフルフルのことをぎゅっと抱きしめた。

「ぴぎ?」


 俺もフルフルをやさしく撫でる。フルフルは、こう見えてもスライム神の眷属らしい。

 犬神もスライム神も、俺の師匠ではないのに、とてもありがたいことだ。


「スライムにもきちんと正式に名前を付けてあげないとな」

「ぴぎ~」


 フルフルは「嬉しい!」と思っているようだ。

 フルフルの言っていることが俺はなんとなくわかる。

 それも、スライム神の眷属だからかもしれない。


 サリアはフルフルと呼んでいる。だから、俺もついフルフルと呼んでしまっている。

 だが、正式にきちんとした名前をつけてあげたい。

 幼児の時にルクスカニスをルンルンとつけてしまったのと同じ失敗は犯したくない。


 だが、

「ふるふるはふるふるだよ!」

「サリアは、どうしてもフルフルって名前がいいのか?」

「うん!」

「ぴぎ!」


 フルフルもフルフルでいいらしい。本人スライムが気に入ったのならそれでいいだろう。


「じゃあ、お前は今から正式にフルフルだ!」

「ぴぎぴぎ~!」


 大喜びのフルフルも連れて、みんなで食堂に移動し朝ごはんを食べた。


「あにちゃ! おいしかったね!」

「そうだな」


 サリアがお腹いっぱいおいしいものを食べられる生活は素晴らしいと思う。

 今までも栄養的には問題ない食事をとってはいたが、味はいまいちだったことが多い。


 本家から与えられる食事は当然まずい上に量も栄養も足りない。

 俺とルンルンがとってきた鳥や山菜や、家臣たちが分けてくれた食べ物で補っていたのだ。

 家臣がくれる食べ物はおいしいものが多かった。

 だが鳥や山菜は水で塩も使わずに煮るか焼くかしただけ。料理とも言えないレベルだった。


「サリア、苦労を掛けたな」

「あにちゃ、さりあ、くろうしてないよ!」

 サリアは太陽のような笑顔を浮かべている。そんなサリアの頭を俺は撫でる。


 そのとき、アルティがやってきた。


「ウィル・ヴォルムス。試験会場に向かいましょう」

「アルティ、出迎えはありがたいが……。アルティも忙しいんじゃないのか?」

「いえ。私は暇ですから。すごく暇ですから」

 アルティはそんなことを言う。


 見習いで仕事をまわしてもらえないのだろうか。なにかやらかして謹慎中とかだろうか。

 とりあえず、アルティの業務については、あまり触れない方がいいかもしれない。


 俺が配慮することを考えていると、アルティは気にした様子もなく平然と言う。


「ルンルンとスライムは連れて行かれますか?」

「スライムは正式にフルフルという名前になった」

「そうでしたか。では、ルンルンとフルフルは連れていかれますか?」

 丁寧にアルティは言い直す。


「従魔だから、試験に同行させても良いということか?」

「そうです。従魔を操る能力が優れていれば、それだけで合格できます」


 俺はルンルンとフルフルを見る。

「わふ?」

「ぴぃ?」

「あにちゃ! さりあはだいじょうぶだよ!」


 俺は少し考えた。サリアをさみしがらせたくない。

 とはいえ、もし入学することになれば、サリアを一人で待たせることもあるだろう。

 慣れてもらった方がいいかもしれない。


「サリア。じゃあ、一人で待っていてくれるか?」

「うん、わかった!」


 それから、サリアを託児所に預けて入試会場へと向かう。

 入試会場は本館とも寮とも違う別の大きな建物だった。


「私はここまでです」

「アルティ。なにからなにまでありがとう」

「いえ。お気になさらず」


 当然だが入試なので受験生と試験官以外は会場に入れないらしい。


「御武運を」

「ありがとう」


 俺はルンルンとフルフルと一緒に試験会場へと足を踏み入れた。

 ルンルンは俺の横をぴったりつき、フルフルは俺の右肩に乗っている。


「獣くせーな! おい!」

「ああ、鼻が曲がりそうだ!」


 会場に入ってすぐ、本家の御曹司二人に見つかってしまった。

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