第11話 ウィルが去った後の神の世界

◇◇◇


 ウィルが師匠たちから加護をもらえていなかったことにショックを受けていたころ。

 神の世界では、帰ったウィルのことを神々のみんなで注視していた。


「やっぱり、ちゃんと姫が説明しないから! ウィルが俺たちの愛情を疑ってるじゃないか」


 剣神が怒りながら人神、つまり女神に食って掛かった。

 女神は不満げに頬を膨らませる。


「なによ! 私のせいだって言うの!」

「明らかに、姫のせいだろう」

「なんで自分のせいじゃないって思えるんだよ、バカなのか?」


 剣神に加えて、竜神まで女神に文句をつけ始めた。


「バ、バカって言ったわね! バカって言う方がバカなんだからね!」

「うっさい、ばーかばーか」

「姫は少しは反省しろ!」


 女神と剣神と竜神が喧嘩し始めたのを放置して炎神がつぶやく。


「姫が悪いのは、まあ当然として……」

「ああ、そうだな」


 炎神に同意したのは魔神だ。


「魔神。あの装置も良くないよな。あれではウィルを測定できないではないか」


 炎神は魔神をじろりと睨んだ。

 ちなみに装置を作ったエデルファスの直弟子である小賢者は魔神の愛し子でもある。


 魔神は自分の愛し子をかばうように、皆に言う。


「あいつは悪くないし凄く優秀だ。使徒という存在を知らないんだから仕方ないだろう」

「それはそうかもしれんが……」

「ウィルが可哀そうだ」


 他の神々も理屈はわかるが、納得できない。

 そんな感じの表情をしている。


 だが、

「ん? つまりどういうことなんだ?」

 そういって首をかしげたのは武神である。

 とても力の強い神だが、あまり賢くない。いわゆる脳筋という奴だ。


「まあ、武神にもわかりやすく説明するとだな……」


 前世エデルファスは女神、つまり人神の愛し子だった。

 だが、ウィルは人神の愛し子ではなく眷属、いわば人族の神獣なのだ。


 説明を聞いた武神がうんうんとうなずく。


「つまり、犬神のルンルン、スライム神のフルフル。姫のウィルってことだな?」

「まあ、簡単に言えばそうだ。他にもいろいろ……いや、何でもない」


 細かいことを説明しようとして、魔神はやめた。

 武神は細かいことなどに興味がないことを知っているからだ。


 人神は至高神の娘、つまり姫なので特別なのだ。

 人神の眷属のことを神たちは「使徒」と呼ぶ。

 そして、使徒の中でも複数の神から加護を与えられた者を「神々の使徒」と呼んでいるのだ。


 武神は少し首を傾げて、考える。


「で、寵愛値測定で俺の加護が測定できなかったのはなんでだ?」


 加護の強さは寵愛値の大きさとイコールである。

 武神は自分の与えた加護が装置に測定されなかったことを疑問に思ったのだ。


 魔神は自分の愛し子、小賢者のことを弁護する必要を感じた。


「それはだな。あれは人族の、人神以外の加護の大きさを測る装置なんだ」

「ふむ?」

「ウィルは純粋な人族でもない。眷属、つまり半神だ。だから、そもそも測れない」


 魔神の言葉を聞いていた神々はうんうんとうなずく。


「そうだな、ウィルは俺たちの使徒だからな」

「眷属になれるようここで修業したんだものな。うん」

「測れなくても仕方ないんだ。武神、そういうもんなんだ」


 神の世界に意識が飛んだのも半神なのが要因だろう。


 武神がはっとした表情になった。


「つまり、エデルファスの弟子の作った装置ではウィルは無能扱いされるってことだろ?」

「残念ながら、そうなるな」


 魔神の返答を聞いて、他の神たちも騒ぎ始める。


「おい、何とかしろよ!」

「ウィルが可哀そうだろ!」

「魔神、お前の愛し子が造ったもんだろう?」

「ということは魔神にも責任があるんじゃないのか?」


 魔神は他の神たちをなだめようとする。


「いやいやいやいや。愛し子が一生懸命作ったものだ。あれはあれでいい装置だ」

「いまはそんな話はしていないぞ」

「そうだ、ウィルが可哀そうだって話をしているんだ!」 


 ウィルを思って騒ぐ神たちをなだめたのは、意外にも武神だった。


「まあ待て待て。愛し子のやったことに責任を持つってのは無理があるだろう」

「……武神がまともなことを言っている」


 驚いた神たちが黙って武神の発言の続きを待つ。


「それにだな。ウィルなら劣等生扱いされても問題ないだろう?」

「根拠は?」

「ウィルは俺の弟子だからな。不当な評価ぐらいはねのける」

「そうか、そうだな。俺の弟子だもんな」

「ああ、俺の弟子だからな」


 神々は、互いに顔を見合わせて、うんうんとうなずいた。


「ウィルの活躍を安心して見守ろうじゃないか」

「そうだな。弟子を信じよう」

「ああ」


 多くの神々が優しい目でウィルを見つめ始めたころ。

 いまだに、女神と剣神と竜神はもめていた。


「竜神こそ! さっさと自分の神獣をウィルのために送りなさいよ!」

「厳選してるんだよ!」

「そんなのさっさと済ませなさいよ!」

「それにスライムや犬と違って、竜は目立つだろうが、タイミングが大切なんだよ!」

「タイミングぐらいどうとでもできるでしょうが!」

「気楽に言ってんじゃねー」

「そうだ、女神は自分の義務を果たせよ!」


 揉めている三柱を見て、他の神々はあきれてため息をついた。



◇◇◇

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