第8話 守護神寵愛値測定装置

 俺は、守護神を調べると言ったアルティの後をついていく。

 そもそも守護神とは何だろうか。前世にはなかった概念だ。

 わからないことは聞くべきだ。俺は無知で当然な八歳児なのだから。


「アルティ。そもそも守護神とはなんだ?」

 アルティは足を止め、くるりとこちらを振り返る。銀色の髪がきれいになびいた。


「文字通り守護してくれる神です。人族には誰にでも守護神がいます」


 俺の問いは恐らくこの時代の人間なら、子供でも知っていて当然のことなのだろう。

 だが、アルティは嫌な顔せず、バカにしたような素振りも見せず教えてくれる。


「ほとんどの人族の守護神は人族を司る人神です」

「人族を司る人神が、人をある程度守護してくれるのは普通に思えるな」

「はい。ですが、まれに人神に加えて他の神の守護を受けている者がいます」

 アルティは俺に合わせるためか、歩調を少しゆっくりにしてくれた。


「一番有名なのは賢人会議の一員、水神の愛し子ディオン・エデル・アクアさまです」


 ディオンは前世の俺の直弟子の治癒術師だ。俺が生きていたころは単にディオンだった。

 ディオンも家名を手に入れたらしい。とても立派になったようで俺は嬉しい。

 というか、小賢者ミルトもディオンもミドルネームはエデルらしい。


 ひょっとして、まさかと思うが、俺の前世の名エデルファスからとっているのか?

 恥ずかしいような、照れ臭いような変な気持ちになった。


 だが、今の俺はエデルファスではなく、ウィルである。切り替えていこう。


「つまり、守護神というのは、いわゆる神の愛し子というやつか?」

 それならわかる。前世の時代でも、そういうやつはたまにいた。

 俺の前世エデルファスも女神のお気に入りだったらしい。


 修行の合間の雑談で、神たちは地上の者たちに目をかけることがあると言っていた。

 多分そのことを指して、守護神と言っているに違いない。


「守護神を持つ者の中でも、特に寵愛値の高いものが神の愛し子です」

 それは新しい概念だ。百年前は愛し子未満の者は考慮されていなかった。


「守護神の寵愛を受けた者は、守護神に対応した能力の適性が高くなります」

「剣神だと剣術がうまくなるとか?」

「そのとおりです。ほかには魔神なら魔法適性が高くなります」

「たくさん守護神がいる者もいるのか?」

「珍しいですが、います」


 風神の寵愛を受けたなら、特に風魔法が強くなったりするのだろう。

 加えて炎神の寵愛を受ければ、風も炎の魔法も強力に使えるようになる。

 さらに魔神の寵愛を受ければ、魔法の威力も魔力も底上げされる。

 神の寵愛は多ければ多い方がよさそうだ。


 俺は沢山の神の弟子となった。きっと師匠たちは俺の守護神になってくれているに違いない。

 何はしらが俺の守護神になってくれているのだろうか。少し楽しみだ。


「この装置では人神以外の寵愛値を調べることができます」

「そうなのか。ちなみに守護神が人神だけの場合、どの能力の適性が高くなるんだ?」

「人神は人族みなの守護神ですから。ほかの人と差がでません」


 言われてみればその通りだ。全員同じならばそこに差はでない。

 つまり人神だけが守護神、つまり守護神一柱の者は平凡ということだ。


 しばらく歩いて、アルティは一つの部屋の前で足を止めた。


「到着しました」

 アルティは扉を開けて、俺に中へと入るよう促す。

 中に入ると十メートル四方の部屋があった。


「部屋の真ん中にある装置を使います」


 部屋の真ん中には透明な直径〇・三メートルほどの球がある。

 それを中心に、床と天井、壁に至るまで魔法陣が刻まれていた。


「なるほど」

 よくできた魔法陣だ。小賢者ミルトの発想は独創的で素晴らしい。

 あらゆる魔法体系が複合的に取り入れられているが、どちらかというと時空魔法の要素が強い。

 神の世界に細い糸を何とかつなげる。そんな発想だ。


 だが、修正すべき点もいくつか見つけた。

 とはいえ、それはミルトの能力が低いということを意味しない。

 出来たものを改善するのは、無から一を作るよりもはるかに簡単なのだから。

 今度、ミルトに会う機会があれば色々教えてもらいたいほどだ。


 そんなことを考えていると、アルティが言う


「ウィル・ヴォルムス。このクリスタルに片手を置いてください」

「了解。それはともかくアルティは俺に敬語も使わなくていい。俺は年下だ」

「…………」


 アルティは困った表情を見せた。


「……敬語の方が話しやすいなら――」

「その方が話しやすいのです」

「そうか。それなら好きにしてくれ」

「はい。好きにします」


 話しやすいなら敬語でもいいと思う。別に俺は敬語を使われても不快ではない。

 アルティは黙って、俺がクリスタルに手を置くのを待っている。


「ちなみに……守護神が人神だけの場合、勇者の学院には入れないのか?」

「そのようなことはありません。ですが能力の問題で合格の可能性は低くなります」

「低くなるか。ちなみに守護神が人神だけの者は勇者の学院には何人ぐらいいるんだ?」

「創立以来、皆無です」


 つまり規定上は可能だが、事実上不可能ということだろう。

 守護神が人神だけということは、人族の中では特に秀でた適性がないということ。

 優秀な能力を持つものを集めている勇者の学院に入れないのは道理ではある。


「なるほど。試験は明日からという話だったが、もう始まっているわけだな」

「そういうわけではありませんが、普通は十歳の時に教会で守護神寵愛値測定をしますので」


 アルティが丁寧に説明してくれる。

 これほど精密な装置ではないが、簡易な装置が各地の教会にあるそうだ。

 測定の結果、守護神が複数いたり、寵愛値の高かった者が勇者の学院を受験する。

 そういうパターンが多いらしい。


 守護神が単独だったり、寵愛値の低かったものは、受験するにしても成長してから。

 そういうパターンも多いらしい。


「ある程度の年齢になるまで、賢者の学院や騎士の学院などで修練をかさねるのです」


 才能が少ない分を努力で補うということだろう。そういう者たちは尊敬に値する。


「ウィル・ヴォルムス。このクリスタルです」

 アルティに再度促された。無知な俺の質問にもアルティは根気よく付き合ってくれている。

 とはいえ、これ以上待たせるのはよくないだろう。


「こうすればいいのか?」

 そう言って俺は左の手の平をクリスタルにピタリと付けた。


 …………

 ………………

 ……………………

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