第54話 チョウチンアンコウが好き

幼少の頃、図鑑を眺めるのが好きだった。

特に魚介類の図鑑は楽しく、怪獣のような姿をした深海魚などに心を奪われた。


そんな影響もあったのか、不思議な夢を見た事がある。

確か、幼稚園かそこらの頃だったと思う。

当時、住んでいたマンションの部屋(廃墟のようになっていた)のドアを開けると、古びたバスタブがあり、そのバスタブの中にヘドロと一緒に皮膚がただれたような感じのサメやエイなどがうごめいているという夢を見た。

不思議と気持ち悪さを感じず、妙な既視感があった。


幼稚園のお絵かきの時間に「好きなものの絵」として、チョウチンアンコウの絵を描いた。

当時、深海魚の中でも特にチョウチンアンコウが大好きで、プールに行くと必ず水底にへばりついて片手を頭上で伸ばし、「チョウチンアンコウのマネ」をしていた僕が、「好きなものの絵を描きなさい」と言われれば、これを描かないわけが無い。

他にはホウライエソなどのワニトカゲギス系の魚やフクロウナギ、ボウエンギョ、マツカサウオ、リュウグウノツカイ辺りが好きなのだが、提出時間が迫っており、チョウチンアンコウだけ描いたのだった。


何故か、アンコウとは不思議な縁があり、その後、小学校に上がると、校庭のネットの向こうのお店の裏手に、顎をフックで吊るされたアンコウを度々目撃する事になる。

丁度、小学校の校庭に背を向けるような塩梅で居酒屋が建っており、その裏手でアンコウの干物か何かを作っていたのだろう。


僕は昼休みなどで校庭に出ると、この居酒屋の裏に吊るされているアンコウを眺めては、深海に想いを馳せていたのだった。

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