第53話 金縛り
怪談が大好きなクセに、あらゆるオカルトを信じていないのだが、一度だけ金縛りにあった事がある。
心霊現象派の人は「霊が近づいてきている証拠」といい、オカルト否定派の人は「身体は寝ているけど、脳が起きてる状態」という。僕はもちろん、後者である。
そう、あれは1997年2月。プレイステーション用ソフト『ファイナルファンタジーⅦ』が出たときの事。
僕はバイトを一週間休んで、「ファイナルファンタジーⅦバイト内最速クリア」を目指し、徹夜でプレイしていた(単なるバカである)。
発売日から3日目。目も手も疲れていたが、Disc3まで進めた興奮が身体を突き動かしていた。
当時、インターネットはまだまだ黎明期で、ゲームの攻略法は数週間後に発売される攻略本を読むしか知る方法が無い時代である。
同じ体勢を取り続けていると身体が痛くなってしまうので、座ったり寝っ転がったりしていたのだが、つい油断をしたようだ。
意識が遠のいた。
どれくらい眠っていたんだろう?
とりあえず目を開けてみる。
最初に目に入ってきたのは天井で、目を動かすと上下逆さまになったゲーム画面が目に入ってきた。
どうやら、僕は仰向けに寝っ転がっているようだった。
まだ
動かない。
ああ、同じ体勢だったから痺れたんだな、と思って起き上がろうと全身に力を入れてみたのだが、微動だにしない。
「え?まさか、これが噂に聞く金縛りってヤツなのか!?」
ガビーン!(死語)である。
オカルトを一切信じていないくせに、人一倍オカルトが大好きな僕は、オカルト本で読んだ知識を総動員していた。
「目だけしか動かせないって本当だったんだな!すげーすげー!…いや、すげーとかじゃなくてゲームやんなきゃ。霊の仕業云々じゃないけど、念仏を唱えれば身体が動くかしら」
とりあえず、般若心経を想い出してみる。
『観自在菩薩行深般若波羅蜜多時…』
しかし、何も起こらなかった。
よし、じゃあ法華経だ!
『南無妙法蓮華経』
効果無し。
ええい、九字だ!
『臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!』
ピクリともしない。
面倒くせえ、もういいや。
諦めた僕は目を閉じ、再び眠りに落ちた。
以上が、初金縛りの
余談だが、バイト先でクリアした話をして自慢していたら、女子高生のスタッフに
「ノリさん、ナイツオブラウンド取りました?」
「え?何それ?」
「召喚マテリアですよ。海チョコボじゃないと行けないとこにあるんですけど」
「え?海チョコボって何?」
「えー?海チョコボ知らないんですかぁ?」
「ぐぬぬ」
そう、僕はクリアを焦るあまり、チョコボ育成などを適当にやっており、普通にプレイしていた人たちから、知らない事実を後からたくさん聞かされたのである。
あれ以来、ゲームは素直に自分のペースで遊ぶ事にしている。
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