第36話 ダンサー=オタク説

前回、「ダンサーとオタク文化は近しい」という事を書いた。

一部重複するが、何故、ダンサーがオタクなのか?という事を書いてみたいと思う。

まず、ダンスが上手くなるには、孤独な努力が必要不可欠だ。ダンサーとは、自分の求める理想的な動きを己が肉体で研究し続ける求道者である。

また、ダンスイベントや生徒の発表会の振付など、自分で選曲して振付する際、極力他のダンサーが使っている音楽を使いたくないので、ダンサーはマニアックな曲を調べる様になる。

ダンスミュージックは、同じ曲でも「リミックス」と呼ばれるバージョン違いの曲がたくさんある。この辺りはDJと同じだが、昔はレコード屋で未知の曲を発掘ディグしたものだ。こうしてマニアックな曲のコレクターとなっていくダンサーも多い。

そして、自分でDJ機材などを使って、曲の切り貼りを行う事で、更に自分なりの音作りに没頭していったり、そこからDJとしての生き方に目覚めるダンサーもいるし、他のチームの曲編集を頼まれていって、自分でトラックを作る様になるダンサーもいる。

ダンサーが手を出す技術は非常に多岐に渡り、ただ踊るだけでは済まない。

古今東西、様々な音楽に対して貪欲になっていく。


ダンサーの追及は音楽だけに留まらない。動きの研究の為、独自のネットワークを駆使して、まるでいにしえのアニメオタクの様に様々なダンサーのビデオをダビングしたりして集めていく。

それは誰かがホームビデオで撮影したCLUBイベントのショータイムだったり、先輩から受け継いだダビングに次ぐダビングでノイズの横線がガビガビに入ってる『Alive TV』(90年代のダンサーたちの間で伝説レジェンドとなったアメリカのドキュメンタリー番組。若かりし頃のエリート・フォースのメンバーやマークエスト、ラバーバンドといったダンサーたちが踊っている姿が観られる、リアルなHIPHOP、HOUSEダンス事情を知る為の貴重な資料だった)だったりした。

こうしたマニアックなビデオのコレクションが増えていくのも、ダンサーとしては嬉しいものだった。


そして、ファッションに興味を持ち、デザイナーやブランドを立ち上げようとするダンサーもいるし、ストリート・カルチャーを軸に興味の対象は連鎖的に増え続ける。

ダンサーはただ単に「ウェーイ!」とはしゃぐパリピではない。むしろ、普段はインドア派でマニアックな人たちが多い。

僕自身、自分がオタク気質だったから、ダンスにのめり込んだのだと思うし、周りにそういう人たちがたくさんいた。

今はどうだか知らないが、90年代のストリートダンサーたちは間違いなく皆、何かのオタクだったはずだ。

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