第26話 ちゃあちゃんとのエジプト旅行6

1月29日。


昼食を食べてバスに戻ってきた。

バスの運転手さんに異様に気に入られる。


お昼前に、昨夜行ったルクソールのバザールのTシャツ屋さんに一人で行ってきた。

凄く仲良くなったので、帰るときにとても悲しくなった。

コーラをおごって貰った。

その帰りに香水瓶屋さんものぞいて

「時間が無いけど来たよ」

と言うと、おじさんが

「My friend.Good bye」

と言ってくれた。


東ルクソールから西ルクソールに渡し舟で渡り、バスで王家の谷へ行った。

ここはネクロポリス(死者の街)と呼ばれ、昔は墓守と神官しか住んでなかった。


西岸には王家の谷の他に、王妃の谷、狒々ひひの谷があり、狒々の谷には貴族たちやアメンホテプなどの墓がある。


古代エジプト人はフンコロガシスカラベを太陽神だと考えていた。

フンコロガシが転がしている糞を、太陽に見立てていたからである。


太陽は人々にとって大切なものであり、切っても切れないものだった。

人々は太陽を見て、東から昇ってきて(生まれる)、西へ沈む(死ぬ)、翌朝に再び陽が昇る(蘇る)…ので、ルクソールの東岸は人間が暮らし(生まれ、生活して)、死ぬと太陽の沈む西岸の山のふもとに埋めて復活を願った。


王家の谷には69もの墓があり、週一回ずつ開いてる墓が変わる。

今回はラムセスⅣ世、ラムセスⅨ世、そしてツタンカーメン(トゥト・アンク・アメン)の墓参りをした。


ラムセスⅣ世の墓は、入り口を真っ直ぐ行って玄室に出て、玄室の奥にミイラ作りの道具や宝物を置く部屋がある造りで、玄室の広さはツタンカーメンの玄室の4倍はあった。

墓の壁には魔法の言葉が書いてあり、その内容は、その墓に眠るファラオのミイラや墓を荒らしたり、汚した者は石になってしまうとか、ファラオの呪いがかかるぞ、といった事が書いてある。


ラムセスⅨ世の墓は未完成の墓で、石棺も何もかも盗まれてしまっていて無い。

この墓にはラムセスⅨ世がオシリス神とイシス女神に告白している絵があり、太陽への旅を描いた絵もあった。


ツタンカーメンの墓は、ラムセスⅥ世の墓が上にあり目立っていたおかげで盗掘されなかった。


僕は、ツタンカーメンのミイラを見た。


その後、アラバスター屋さんに行き、ハトシェプスト葬祭殿に行った。

そして東岸に戻り、夕食後にカイロに戻ってきた。

すると、

「ホテルに着いたら帰る」

とハッサンが言ったので悲しくなった。

後一日、一緒だと思っていたから。


バスの中で、ハッサンは最後のガイドをして、カイロの街の事を教えてくれた。

別れの挨拶のとき、ハッサンの言葉が途切れ、僕は泣いた。


ホテルのロビーでハッサンと話しているうちに、僕は人前にも関わらず大泣きしてしまい、ハッサンに

「僕も泣いてしまうから泣かないで」

と言われた。

でも、泣き止むどころか、次から次へとこの旅の想い出がこみ上げてきて、もう僕は何が何だかわからなくなってしまった。

そんな僕を見て、ハッサンは

「まだここにいますから、最後は笑って別れましょう」

と言ってくれて、益々涙が溢れてしまった。


僕と上様、ジュンコさん、ミカさん(一緒に買い物に行った女の子たち)の住所を書いた紙と、チョコレート「白いダース」、ムヒの虫除けスプレーをプレゼントしたけど、

「もう一つプレゼントがある」

と言って、僕は部屋に戻った。


ハッサンは高校生の頃、バスケをしていたから、週に一本しか吸わなかったけど、マルボロが大好きで、大学に入ってバスケを止めてからヘビースモーカーになった。

ガイドをするようになってからは、走ると息切れをしてしまうし、膀胱に石があって、それを溶かす薬と煙草の相性が悪いので、喫煙にドクター・ストップがかかっていた。


だから僕は

「身体を壊さない程度に吸って下さい」

とマルボロ1カートンをプレゼントした。


ハッサンと一緒に写真を撮ってもらってから、ロビーで添乗員さんと上様、ジュンコさん、ミカさん、おじさん、僕の祖母たちと飲んだり話したりして過ごした。

午前4時頃には僕とハッサンと現地スタッフしかいなかったので、

「このエジプトという国に来たくて僕らはやってきて、もちろん好きでやって来たんだけど、この国を好きになって、もう日本に帰りたくないほど好きになったのは、ハッサンがこの国を教えてくれたからです」

と言うと、ハッサンは涙目になっていて、

「本当にありがとう。今度いつかまた絶対に逢いましょう」

と言ってくれた。

2人で別れの挨拶をした後、僕はハッサンに対しては初めてで最後のアラビア語を使った。


さようならマ・アッサラーマ」と。

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