第20話 M研と劇研

今はどうだか知らないが、M研は大学から認可を受けていない自主的な集団であり、他の大学の学生や僕の様な学生以外の参加者もいた。


池袋西口公園にある芸術劇場の周囲で閉館後に踊ったり、近所の小学校の教室を借りたり、学内にあるウィリアムズホール(通称:ウィリホ)などで練習していた。

俺が参加した当初はジャズダンスがメインだったが、徐々にストリートダンスの希望者が爆発的に増えた。


今でこそ昔話に聞こえるかも知れないが、あの当時(25年ほど昔)は確かに、「ジャズダンサーによるストリートダンス蔑視の時代」だった。

曰く、「遊びの踊り」

曰く、「姿勢が悪くなる」

曰く、「基礎がなってない」

曰く、「すぐに廃れる」

などなど、かなり批判的な意見を受けていた。

まぁ、いつの時代も新しく出てきたものに対する風当たりは強いものである。

人は、得体が知れないものを本能的に避けたがるものだ。

今でこそ、ストリートダンスをテレビで見かけない日は無いくらいになったが、あの当時はまだ、歌番組のバックダンサーはジャズダンサーが殆どだった。

10年一昔と言うが、ダンス界においても10年という歳月は長いものだ。

歌番組のバックダンサーは、ストリートダンス主体になると、あの当時、思っていた人はごく僅かだったろう。


M研もまた、その時代の流れに翻弄ほんろうされようとしていた。


サークルの部長が替わった時、正に「政権交代」が起こったのだった。

「これからは、ダンスのサークルに。名前も『D-mc』とする」

かくして、St.Paul’s Musical CompanyはD-mcと名前を改め、現在に至る。

ちなみに、D-mcのmcとは「Musical Company」の意味である。


ダンスのジャンルもストリートダンスがメインとなり、D-mcと名称が変わった当時、ジャズダンスを踊る子の人数が大幅に減少した。


M研の頃は、まだ演劇的要素を多分に残しており、公演はダンスと芝居が半々くらいの割合で行われていたのに対し、D-mcになってからは、完全にダンスの公演となり、ダンスの演出の一つとして、簡単な芝居、もしくは事前に撮影された動画を流すようになった。


あの当時から現在も、何故か大学のダンスサークルの公演は小芝居が挿入されたりするのだが、あれはこの時代からそういう流れがあったからだと思う。


D-mcは関東大学学生ダンス連盟シグマに参加しており、他大学との交流も盛んだが、特にこの当時は青学のADLや東京理科大のAQUARIUSなどと繋がりが深く、相互に影響を与え合っていたものと思われる。

ちなみにADLは昔からプロの演出家さんがついており、公演はストーリー仕立てのものが殆どである。


たまに大学のダンスサークルの公演を観に行く事があったのだが、いまだにあの当時と変わっていない舞台を観ると、20歳の頃にタイムスリップをしたかのような、奇妙な既視感を覚える。


しかし、参加者の人数は圧倒的に今の方が多い。

普通に数百人規模なんてサークルも珍しくない。

ダンスもメジャーな存在になったんだなぁ、と感慨深いものを感じた。


僕はD-mcと名が変わった後、きちんと脱退の意思は表明しないまま、段々とサークルから疎遠になっていった。

もちろん、同期や後輩たちと仲が悪くなった訳では無いし、むしろ仲のいい友人が多く在籍している集団だったのだが、なんとなく顔を出さなくなり、足が遠のいたのだった。


その頃、しばらくはウィリホの三階で個人的にダンス指導などを行っていた。

当時参加していた、よさこいソーランの「東京学生 すい」で知り合った他大学の後輩や、当時の彼女にHOUSEを教えながら、ダンス指導のノウハウを自分なりに模索していた。

それが、後々の仕事に結びつくのだから、ウィリホには足を向けて寝られない。


M研やD-mc以外にも、お世話になったサークルがある。

演劇研究会(通称:劇研)である。

劇研とM研は、かねてから交流があり、劇研のナカタニさんや、同い年で後にダンスチーム「OFF THE LOCK」として一緒に踊ったタニー(谷口浩久たにぐちひろひさ)らとは特に仲良くして貰った。

互いの公演時には手伝いをするような間柄で、かつ、俺はナカタニさんの舞台のファンだったので、一緒に立て看板を組んだり、大道具をこしらえているときなんかに話せるのが凄く嬉しかった。


あるとき、ナカタニさんから

「のりちゃん、今度ワークショップをやるんだけど、役者の動きを見てやってくんない?」

と声をかけてもらった。


それから、ナカタニさんが主催するt-floorという演劇ユニットに振り付けとして参加させてもらい、「演出家さんの持っているイメージを動きで表現する」という事を学んでいった。

後に振付師として仕事する様になっていくのだが、間違いなくここでの経験が生きていると言えよう。


あの頃の立教大には、本当にお世話になったなぁ、としみじみ思う。

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