第16話 四国でのアルバイト

同じクラスでかつ、演劇部でも一緒だったAという女の子が

「ねえねえ、夏休みにさ、四人で四国にバイトに行かない?」

と言ってきた。

Aが誘ったメンバーというのが、Aの彼氏であるS(後にバンド「Virgin」を一緒に結成するメンバーにもなる)、僕、そして当時僕が付き合っていた彼女だった。

Aのお父さんだかお母さんだかの実家があったのか、A自身がかつて住んでいたのかは忘れてしまったが、とにかくAは四国に伝手があり、某グループという学習塾の先生用の部屋に寝泊まりして、夏期講習で泊まり込む子供たちの面倒を見るバイトの話を持ってきたのだった。

「面白そう、行こう!行こう!」

と喜んだが、そこは高校生の事。まずは家に帰って親の許可を貰おうという事になった。

親に話すと

「いいよ。行ってきな」

と、ごくアッサリ許可が下りた。


夏休みに入り、いよいよ四国に行く事になった。

青春18きっぷを使って電車を乗り継いで大阪まで出て、フェリーに乗って四国へ行くというルート。

バイトの期間は2週間。前半の1週間は先生たちも夏季休暇という事で、誰もいない塾に寝泊まりしながら過ごすだけという、いわば住み込み警備員の様な仕事。そして、後半の1週間は夏期講習合宿の小学生たちの面倒を見るという仕事だった。

両親の祖父母の実家が江東区内にあり、田舎というものに対して憧れがある僕にとっては、非常に楽しみなバイトであった。


ところが、行きの最中に僕と彼女が大喧嘩の末に別れるという、非常に気まずい状況での四国行きとなってしまった。

今でもAとSには申し訳無い事をしたと思っている。


しかし、実際現地についてバイトが始まってみるとこれが楽しい。

寝泊まりをする塾のすぐ近くには海があるし、本屋さんもすぐ近くにある。

また、先生用の部屋には当時にしてもかなり古い雑誌がたくさん置いてあり、「SFアドベンチャー」という雑誌に阿刀田高先生の「女体」というショートショートが載ってて、これが中学の頃に読んだ『食べられた男』に収録されている「カレー&ライス」だ、と気づいて嬉しくなったりした。


そんなこんなで2週間を過ごして手に入れた報酬は、東京と四国の往復の運賃でほぼ消えてしまった。

失うもの、手に入るもの。

切なさを学んだ夏休みであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る