第9話 田島くん

小学校の同級生に、田島くんという双子の兄弟がいた。

僕がずっと同じクラスだったのは、弟のMくん。兄のTくんとは別のクラスだった。

Mくんはいわゆる「本の虫」で、文字通り常に文庫本を手放さなかった。彼が読んでいたのは、マイケル・ムアコック『ルーンの杖秘録』シリーズや栗本薫『グイン・サーガ』シリーズ、J.R.R.トールキン『指輪物語』といったガチなファンタジー作品。何でも、彼の親戚のおじさんがファンタジー好きな方らしく、家に行くと本棚には創元推理文庫やハヤカワ文庫のファンタジー小説がびっしりと埋まっていた。


六年生になったある日の事。僕が田島家に遊びに行くと、既に何人かの友達が集まって、リビングの炬燵を取り囲んでサイコロを振ってはA4くらいの紙に何やら書き込んでいた。

「何やってんの?」

「あ、タナさん(僕の本名は田中なので、小学生の頃はタナさんと呼ばれていた)もやる?」

これが、僕と『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』、ひいてはテーブルトークRPG(TRPG)との邂逅かいこうであった。

「まずね、サイコロを三つずつ、六回振って。出た数をここに順番に書いていって」

とキャラクター作成の手解きを受ける。

「出来たよ」

「どれどれ…。うーん、ストレンクスとインテリジェンスが高いから、エルフが向いてるよ」

といった塩梅で、最初にこさえたキャラクターはエルフだった。

ダンジョンマスターは高川くんという、他のクラスの子だった。

この日から僕は『D&D』の虜になった。

「これ読んでごらん」

と渡された『月刊コンプティーク』に載っていたのは、『D&D誌上ライブ ロードス島戦記Ⅱ』。これがもうべらぼうに面白くて、自分でも『コンプティーク』を購読する様になった。

小学校を卒業し、僕はひとり吉祥寺にある学校に通うようになったが、日曜日は田島家でTRPGをして過ごした。

田島家には実に様々な興味深いものがあった。

『トンネルズ&トロールズ』、『ルーンクエスト』、『フォーリナー』、『指輪物語ロールプレイング』、『ナイトメアハンター』、『ファンタズム・アドベンチャー』といったTRPGのシステム群やMSXの『ダンジョンマスター(後に出た3DダンジョンRPGではなく、見下ろし型のアスキーから出てた方)』など、ファンタジー欲を満たすアイテムの数々に圧倒されながら、僕は田島くんからファンタジーの薫陶くんとうを受けていた。


ある時は『ルーンクエスト』で遊んだり、またある時はラルフ・バクシのアニメ版『指輪物語』を流しながら『指輪物語ロールプレイング』で遊んだりと、あの頃の濃ゆい体験は今の僕を形成する大きな土台となっているのは間違いない。

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