第76話 チーム分け
「――盛り上がっているところあれなんだが」
それぞれが注文した料理も食べ終え、ドリンクバーを飲みながら話に花を咲かせていたところで、達也が腕組みをしながら、静かにそう切り出した。
「どうしたんだよ急に……」
「どうもこうもあるかよ、伊織……。大事なことを忘れていたよ、俺は」
「大事なこと……?」
「そうだ。それはズバリ…………チーム分けだっ!」
達也が席から立ち上がって声高に叫ぶ。
「た、達也……」
……いやね。たしかにチーム分けは大事なことではあるんだけどね……。
ここ、ファミレス。学校じゃないの。俺らの他にもお客さんいるのね。学生だけじゃないの。
ここで場違いな声量でしゃべったりなんか出したら……。
――ほら見ろ。
周りのお客さんの冷ややかな視線が達也に、もとい俺たち四人に向けられているじゃないか。
達也もようやくそれに気づいたのだろう。
周りにペコペコと頭を下げてくれたから、なんとか最悪の事態を免れることができた。
「みんな~わりぃわりぃ」
「まあ、お前はそう言う奴だからな。いつも通りで逆に安心したよ」
「何だよ伊織。すっげー嫌味に聞こえる!」
「まぁ、若干嫌味混じりなのは認める」
「くっ……まぁいいだろう」
達也は咳払いをして、こちらを向き直す。
「それで、だ。チーム分けのことなんだが……。俺と佳奈ちゃん。伊織と結衣ちゃんでいいか?」
「まぁ、いいけどさ。チームバランスは大丈夫か?」
おそらく、というか俺の中ではもうそのチーム分けだと思っていたから違和感はなかったが、一応聞いておく。
「まあ、何とかなるだろうよ」
「ちなみに、みんなの順位は……?」
何も知らないのと知っているのでは対策上でも重要だからね。
「わたしは……125位」
「私は43位」
「えっ⁉ みんな高くね?」
近藤さんと佳奈さんの順位を聞いた達也がすっとんきょんな声を上げる。
「何~? 達也、そんなに悪かったの?」
ニヤニヤしながら佳奈さんが達也に問いかける。
「え、えっとぉ……260位っす」
「「「あぁ……」」」
達也以外の三人の納得、というかどこか案じるような声が重なる。
「ま、まぁ、今回はちょっと勉強が追いつかなかっただけだし……⁉」
「言い訳の常套句だな。ある意味清々しいぞ」
「っ………」
達也はさっきまでの威勢はどこへやら。がっくしと肩を落としてしまった。
というのも、達也の260位を聞いて俺たちがあんな声を出してしまったのには訳がある。
俺たちの学校の一学年が約300人。
各試験で下位10%に入ってしまった生徒は、「強制補習」という我が校の伝統的なイベントに参加することになるのだ。
つまり、達也は中間試験で補習のラインに足をかすめてしまっていたのである。
まあ、今回はギリギリで回避したということなのだけど。
「佳奈さんは上位20%には入ってるけど、達也がね……」
「たしかに! ちょっと達也。マジでしっかりしてよね!」
「は、はい……」
佳奈さんの強烈なゲイボルクが達也の背中に突き刺さるのが見えた……気がする。
「――それにしても、結衣は羨ましいね」
「え? どうして?」
「だってさ、伊織くん学年3位じゃん? ぶっちゃけチートじゃね?」
「そ、そんなことないって……。わたしが高岡くんの足を引っ張っちゃうかもだし……」
「何言ってんのさ。これに比べればどうってことないって」
うなだれている達也を指差して「これ」扱いですか。……佳奈さん、さすがっす。
その後も成績に関して色々と議論が交わされたものの、チーム分けは結局当初の達也の案でいくというところに落ち着いた。
まぁ、チーム分けとしては妥当なところだろう。
前回と同じような成績を取ることができれば俺と近藤さんの勝利は堅いが、しかし、油断は禁物だ。
なぜなら、達也は本気でやる気を出したら計り知れない力を発揮するからだ。
普段あんなにチャラチャラしていても、やるときはやる男。高みの見物でいると、足元をすくわれる可能性だってある。
やるなら徹底的に勝ちに行くべし。
近藤さんも、どうしても順位を二桁に載せたいと言っている。
なんでも、二桁になればお小遣いが増えるんですって。
……え、何それ。めちゃくちゃ羨ましいんだけど。
俺の親は、美咲には固定給なんだけど、なぜか俺だけそのときの気分によって毎月のお小遣いが変わるっていう。
だからお小遣い支給日には必ず下手に回るんだよね。
完全歩合制ならぬ完全親機嫌制。待遇差ありすぎ不安定すぎてとっても怖いです……はい。
ファミレスからの帰り際、前を歩く達也と佳奈さんの後ろを俺と近藤さんが駅に向かって歩いている。
「――ねぇ、近藤さん」
「どうしたの?」
「期末試験の勝負……絶対勝とうね」
「うん! もちろんだよ!」
「達也なんかに負けてたまるか」
「わたしもっ! 佳奈に勝ってみたいな」
「じゃあさ、前みたいに一緒に勉強する?」
「ま、前みたいに……?」
周りが暗くてよく見えないが、近藤さんは両手を頬に当てて何やらブツブツと何かを呟いている。
「前みたいにってことは……また一緒に……隣同士で……ど、ど、どうしよう……集中できるかな……」
「こ、近藤さん?」
「ひゃっ!」
「っ⁉ ご、ごめん!」
俺は近藤さんの驚いた声に驚いてしまい、思わず勢いで謝る。
「あっ……た、高岡くんが謝ることじゃないよ……ちょっとわたしドキドキしちゃって……」
「えっ? 今何て?」
「あっ、いや……な、なんでもないよ……あはは」
「そ、そっか……」
なんでもないと言いつつ道端の小石に躓きそうになってるけど……本当に大丈夫かな?
「おーい、お二人とも。何後ろでいちゃついてるのかな?」
「は、はぁ!? べ、べ、べ、別にいちゃついてなんかないしっ!」
「嘘つけ。お前のほっぺたがもちみたいに垂れ下がってんぞ。バレないと思ったら大間違いだからな!」
「え、まじ⁉」
慌てて頬に触れて確認する。が、いつも通りな気がする。いや、嘘やないかい。
……あいつ、試しやがったな。もしかしてさっきのことを根に持ってるのか?
「それに、結衣は顔真っ赤すぎ」
「ちょ、ちょっと、佳奈まで……」
「あはは、二人を見てるとこっちまで痒くなってきちゃうねこれは」
佳奈さんは相変わらずニカっとした笑みでこちらを眺めている。
「おーい、伊織くんと結衣ちゃん! 早くしないと置いてっちゃうぞ〜」
気がつくと俺と近藤さんはその場で立ち止まっていたのだろう。前を歩く達也と佳奈さんとの距離がだいぶ開いてしまった。
俺と近藤さんはお互いに頷くと、前を歩く二人に早歩きで進み始めた。
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