第70話 樋本華蓮は訝しむ
「……どうでした? 華蓮殿の力は」
「いや~あれは無理でしょ。少なくとも、
「ふむ……やはりそうですか」
「やっぱ最初の案でよかったってこと。『例の子』は結局どうだったの~?」
「ええ……思ったとおりでした。光属性の魔法少女で、間違いないかと」
「まじい? 魔力は?」
「問題ないと思われます。京香殿の魔力なら、十分制御できるかと」
「いいじゃん……んじゃ、もう『雪女』のことは諦めていっちゃおうよ~」
「そうですね……今はある意味でチャンスですから」
「ふふ、言えてるそれ。んじゃ、そっちはよろしくね~ウチはこっちまとめとくから」
「全く、京香殿は人使いが荒い……まあいいです。では、わたくしはこれで……」
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「……あ! 華蓮さん!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、はっと顔をあげる。
いつの間にか、寝落ちしそうになっていた。
慌てて声がした方向を向くと、遠くに見慣れた顔を見つけることができた。
「あ……芽衣」
「もーどこに行ってたんですか華蓮さん! 部屋に戻ってもいないから探したんですよ? 電話も出ないし!」
ぷんすか怒ってこちらに向かってくる芽衣。
小さい身体で、一生懸命人混みを掻き分けながらやって来る。
人の波に押されてばたばたしている芽衣は、ただの小さな女の子だった。
「えっと……ど、どうだった?」
「いえ、こっちは特に収穫なしです……華蓮さんは? どこかに出かけてたんですか?」
「いや、それが……」
そこまで言って、口を閉じた。
『源芽衣には、気をつけな――』
京香の言葉が、頭をよぎる。
……何を馬鹿な。
わたしが気を付けることなど何も無い。
だって、今の芽衣に危険なことなど無いのだから。
しかし、芽衣からは感じるのだ。
魔族の気配を。
首筋を、嫌な汗が伝う。
……いや、いやいや。
今さら何を考えているのだ、わたしは。
そんなの、アストラルホールでの一件からずっとではないか。
芽衣から魔獣の魔力を感じるのは、当たり前だ。
意識しすぎるからそう感じるだけで、芽衣は……
「……華蓮さん?」
芽衣が少し首を傾げて、わたしの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか? やっぱり体調、良くないとか……?」
「……あのさ……芽衣、モアと喧嘩でもした?」
「はい? 何の話です?」
「……ううん、なんでもない! もうこんな時間だし……夕飯、食べに行こっか」
「そ……そうですね。外出、できそうですか?」
「大丈夫大丈夫。ゆっくりできる良いお店、探しましょ」
そう言ってわたしは、芽衣の手をぎゅっと握った。
「え、華蓮さん……積極的ですね」
「……あんた、なんか麻子に毒されてない? 普通に逸れないように掴んだだけだから」
わたしは芽衣の手を強く握ったまま、歩き始めた。
……厳密には、今の言葉には嘘がある。
確かに逸れないようにと思い掴んだ手だが、それだけではない。
ミラージュの魔法少女が、わたしたちを見ているような気がしたから。
この手を離したら芽衣までいなくなってしまうような気がして、わたしは手を離すことができなかった。
――結局この日、わたしたちは夕飯を食べた後、解散することになった。
家の前までわざわざ送ったわたしのことを芽衣は不思議がっていたが、それでもミラージュのことは話さなかった。
何て言えばいいのか、わからなかった。
もし万が一、魔獣の活動に芽衣が一枚噛んでいるとしたら。
わたしがミラージュのことを話すことで、何かが壊れてしまうような気がして言えなかった。
東京旅行は、まだ明日一日残っている。
帰るのは、明後日の朝だ。
まだ、時間はある。
そう思い、わたしは自分の思いに蓋をした。
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