第66話 Aランクの強者たち

「それじゃ……次はAランクの魔法少女、三人についてお伝えしましょうか」


 瑠奈はさっきと同じように、三本の指を立てた。


「もうわかっていると思いますが、Aランク魔法少女の一人目は……あなたです。炎の魔法少女、『樋本華蓮』」

「ん。知ってる」

「炎属性の魔法少女は他にもいますが……その中でも、あなたの火力は桁違いだと言われています。炎属性最強の魔法少女だと」

「へ、へえー……そうなんだ、ふーん……?」

「……なんか嬉しそうですね?」

「は!? ち、違うし! わたしが桁違いに強すぎるせいで恐れられているなんて、困ったものね!」

「いやそこまで言ってません」


 瑠奈が冷ややかな目で見ていたので、コホンと小さく咳払いして気を取り直す。


「というか……炎属性って他にもいるんだ?」

「いっぱいいますよ。むしろ、ひとりしかいない『固有属性』は稀なんです。雷も風も氷も、他にいますからね」

「ふーん……」


 それを聞くと、過去にも例がないという闇属性をもつ麻子は一体何者なのよと言いたくなってしまう。

 固有属性……ちょっとかっこよくて羨ましい。

 わたしも特別感がある称号が欲しい。


「それじゃ、二人目は?」

「二人目は……えっと……」


 もごもごと口ごもる瑠奈。


「二人目は……なによ?」

「二人目は、その……」


 瑠奈がモストにアイコンタクトを送る。

 しかし、モストは黙って首を微かに横に振るだけだった。

 ……なんだ? その反応は。

 さっき、瑠奈が氷の魔法少女の話をしたときと同じ反応だ。

 単純に「わからない」から、首を横に振っているようには見えない。

 まるで、何かを隠しているような態度。

 その魔法少女を内緒にしなければいけない理由でも、あるのだろうか。


「……なんなの? なにか、わたしには言えない事情でもあるってわけ?」

「い、いえ……その人は……どうも、光属性の魔法少女だそうです」

「ふーん、ひかりね……ひかり……光ぃ!?」


 思わず大きな声が出てしまい、カフェラウンジにいる客の視線を集めてしまう。

 慌てて両手で口を覆って、姿勢を低くする。

 光って……闇に対して、圧倒的に強い属性だ。

 芽衣が魔王になる前に、モアが探し求めていたのが光属性。

 そんな光属性をもつ魔法少女が、現れたのだとしたら。

 闇属性である麻子や、魔王の力をもつ芽衣の身が危ないのかもしれない。


「そ……その光属性の人が、ミラージュにいるわけ?」

「いえ……違います。その人は、つい最近魔法少女になったそうですから。ミラージュを創ったAランクの方は、別人ですよ」

「……そう、なの」


 ほっと胸を撫でおろす。

 こんな胡散臭い組織に光属性の魔法少女がいたら、麻子や芽衣を脅かす存在になり兼ねない。

 光属性は、闇属性の天敵だ。

 わたしたちと敵対しないように、気を付けなければいけない。


「現存している魔法少女で他に光属性はいませんから……その人が本当に光属性だとしたら、『固有属性』になりますね」

「光属性は、唯一その新人魔法少女だけってことね……」


 つまり、現状ミラージュに光属性の魔法少女はひとりもいないということだ。

 それならば、やはり芽衣は圧倒的な力を発揮できるはず。

 ミラージュに、芽衣に勝てる魔法少女などいるはずもない。

 それなのに、どうしてだろう。

 妙な胸騒ぎがする。


「そうです。そして、Aランク最後のひとり……ミラージュを創ったあの方も、固有属性の持ち主です」


 瑠奈は嬉しそうに、わたしの目を見て言った。


「その、三人目というのが……」


 瑠奈が、三人目の名前を言いかけたとき。

 横からぬっと、背の高い人影が現れた。

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