第65話 Sランクの異分子たち②
「Sランクに位置付けられている魔法少女は……三人います」
瑠奈は、三本の指を立てて語り始めた。
「Sランク一人目は、風の魔法少女『源芽衣』。いわゆる魔王、ですね」
「……やっぱり、そうよね」
「元々Aランク相当の魔力をもつ魔法少女が、魔王の力まで取り込んだ……Sランクの中でも、特に異質な存在ですね。今や、光属性以外では勝ち目がないとも言われているほどの存在です」
元々Aランク相当の魔力……確かに、初めて会ったとき芽衣はわたしの『花火』を風魔法で防いでいた。
それを思い出せば、芽衣は最初からわたしと同等の力を持っていたということである。
その芽衣が、魔王の力も得た。
まさに鬼に金棒……今の芽衣が持つ魔力は相当のものだろう。
「そして二人目は、闇の魔法少女『黒瀬麻子』」
瑠奈の口からその名前が出て、びくっとする。
想像はしていたが、災害級とまで言われる魔法少女にふたりの名前が挙げられるのは落ち着かないものだ。
「過去にも例のない、唯一の属性をもつ魔法少女です。魔力が異常なまでに強く、すべての魔法を無に帰す闇魔法をもつ彼女は、Sランクに認定されました」
「麻子も……そうなのね」
いつも一緒にいる麻子と芽衣がSランクで、わたしがAランクというのは少し気に入らないが……アストラルホールでの戦いを思い出すと、認めざるを得ない。
わたしとあのふたりの魔力では、圧倒的な差がある。
麻子と芽衣の闇は、わたしの炎をいとも簡単に呑み込んで打ち消して見せた。
凶悪な闇を纏った芽衣の姿を見たときは足がすくんだし、麻子が拡げた暗闇に呑み込まれたときは言いようのない恐怖に襲われた。
わたしの魔法では、ふたりには勝てない……そう思わざるを得なかったのだ。
だから、あのふたりがSランクの魔法少女で、わたしよりも格上だというのは理解できる。
「そして最後の三人目。その人のことは、わたしもよく知らないのですが……」
瑠奈は何やら考え込んでいるような顔つきで言った。
「三人目の名前は、
「歴代最強……?」
白雪羽衣――初めて聞く名前だ。
瑠奈の言葉を信じるなら、魔王を取り込んだ芽衣よりもさらに強い魔力をもった魔法少女ということになる。
そんな魔法少女、本当に存在するのだろうか。
「その、氷の魔法少女っていうのは……何者なの?」
「……それは……」
瑠奈がチラリとモストに視線を向けたが、モストは黙って首を横に振った。
「……その人は、わたしたちも手に負えなくて。今どうしているのかは、わからないんです」
「……はあ?」
なんだそりゃ?
そんなに強い特別な魔法少女なのに……当初の麻子と同じように、魔法少女のやる気がないということなのだろうか。
わたしと芽衣が過去に魔獣を逃がしていたことを思い出して、その魔法少女も何か良からぬことを企んでいるのではないかと勘繰ってしまう。
氷の魔法少女、白雪羽衣――一体何者なのだろうか。
「とにかく、Sランクの魔法少女は以上三名ですが……三人合わせても魔獣討伐数はたったの一。過去に黒瀬麻子が倒した魔獣一体のみなのです」
瑠奈は大げさに両手を挙げて、呆れたような声を出した。
「魔法少女としては、全く機能していないということがわかるでしょう」
「……はっ。確かに、それだけ聞くとSランクの魔法少女にろくなやつはいないわね」
真面目に魔法少女している瑠奈が怒るのも無理はない。
「そうなんです。どうしてSランクはこんな人ばかりなのかと、呆れてしまいますよ」
「まあまあ。わたしの知る限りじゃ、魔法少女は闇が深い子ばかりだからね」
この三人が、わたしよりも格上の魔法少女。
しかし、ミラージュに属している子はひとりもいない。
むしろ、三人中二人が味方。だったら、敵対しても何とかなりそうだが……この認識は、間違っているのだろうか。
「それじゃ、Aランクは? 何人いるの?」
「Aランクの魔法少女は二人……じゃない、三人ですね」
「えっ……それだけ?」
Aランクの魔法少女が三人。Sランクの魔法少女と、同じ数。
当然、AランクはSランクよりもいっぱいいると思っていたから拍子抜けだ。
そんなに少ないのなら、わたしは魔法少女全体でも相当上位の魔法少女ということになる。
「そうですよ。だからあなたは、本当に強い魔法少女なんです」
「ふ……ふーん……」
そんなことを言われて、思わず口元が緩む。
麻子と芽衣しか他の魔法少女を知らないから実感が湧かないが、わたしの魔力はどうやらかなり強い方らしい。
確かに、さっきわたしの炎で打ち消した瑠奈の雷魔法は、やけに威力が控えめだと思っていたが……まさか、あれが全力ということなのだろうか。
「ミラージュのひとりもAランクの魔法少女……だったわよね」
「そうです。それじゃ、次はAランクの魔法少女についてお伝えしましょうか」
瑠奈はさっきと同じように、三本の指を立てた。
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