第33話 闇VS闇

 雪は降っていないが、日も落ちてかなり寒い。

 街灯がぽつぽつと暗闇を照らすだけで、人の気配は全くない。

 わたしの足跡だけが雪道に残り、真っ白な息が寒さと心細さを際立たせる。

 それでもわたしは、魔獣の魔力を感じる方向に歩みを進めていた。

 間違いなく、この先に魔獣はいる。

 そう確信できるだけの、嫌な魔力を感じる。

 もし、そこに芽衣がいるのだとしたら――わたしが助けてあげないと。

 足早に、かつ慎重に。暗い夜道を歩いていると、遠くに小さな黒い影が見えた。


「あれは……」


 足を止めて目を凝らす。

 ゆらゆらと動く影が、だんだんはっきり見えるようになってきた。

 ……魔獣だ。

 でも、一匹だけ。周りにほかの魔獣がいる様子もない。

 この先に、まだ複数の魔獣の気配を感じる。

 もしかしたら、この先に芽衣がいるかもしれない。

 だったら、行かないと。魔獣がいようと関係ない。

 わたしは、魔獣に向かってゆっくり歩きだした。


 少し歩くと、雪道を歩くわたしの足音に気付いたのだろうか。

 みい! という独特の甲高い鳴き声と共に、魔獣がこちらを振り向いた。

 見つかった。襲われる。

 でも、今は逃げるわけにはいかない。わたしはこの先に進まないと。

 闇属性の魔獣に対して、わたしの闇の魔法……モアは以前、闇同士がぶつかるとどうなるか想像もつかないと言っていたが、わたしはそうは思わない。

 きっと、そんなに難しい話ではないはずだ。

 右手を胸に当て、わたしの魔法……黒い闇を手に纏って、ゆっくりと近付く。


「……来い」


 だっ、と魔獣がこちらに駆けてきた。

 わたしはそれを迎え撃つ。

 目を逸らさずに、魔獣の動きを追いかける。

 大丈夫、わたしの想像どおりなら勝てるはずだ。

 魔獣がジャンプしてこちらの顔の高さまで来た瞬間。

 わたしは一歩後ろに仰け反り、右手から魔力を放出した。

 闇の魔法……不気味な黒い闇。わたしの右手から出たそれは、一瞬で魔獣を覆った。


「みいい!?」


 魔獣の驚いた甲高い声がしたかと思うと……そいつはわたしの目の前で、眩い光に包まれて、消滅した。


「……倒せた」


 思ったとおりだ。闇同士がぶつかるとどうなるか。

 その答えは単純明快。

 より強い闇が相手を飲み込む。それだけだ。

 モアが『珠玉審判』のときに言っていた言葉を信じるなら、わたしの魔力は相当強い。

 それなら、雑魚敵である魔獣にわたしの魔力が負けるわけがない。

 そう思って試してみたが、どうやらその認識は正しかったようだ。


「闇なら……闇に勝てるんだ」


 ということは……光属性の魔法少女を除けば、わたしは唯一魔王に対抗できる魔法少女なのかもしれない。

 芽衣や華蓮が敵わない闇の魔王に勝つことができる、唯一の存在なのかもしれない。

 もし、そうなのだとしたら……


「……行かなきゃ」


 わたしは、魔獣の気配がする方向に走り出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る