第31話 源芽衣は語らない

 メイルたんの配信活動が止まって、数日が経った。

 相変わらず、雪が降ったりやんだりの厳しい寒さが続いている。

 わたしは寒さに耐えきれず、ひとりでベッドに潜り込みひたすらタブレットを操作していた。

 今日はもう、受験日の前日である。

 今でも毎日メイルたんの配信がされていないか確認しているが、彼女のチャンネルが更新される気配はない。

 一度、芽衣の家にも行ってみたのだが、留守のようで会うことはできなかった。

 これまでは、モアがいたから芽衣と会う理由ができていたのだ。

 モアがいないせいだろうか、あれから芽衣と話をすることすらできていない。

 そのモアはというと、光の魔法少女を見つけることに忙しいのか、わたしの前に全く姿を見せなくなった。

 芽衣もモアも、華蓮もいない。騒がしい日常から急に静かな日常になったせいで、ここ数日は前よりもずっと寂しく感じていた。


「……暇だなあ」


 ちなみに、勉強するつもりは毛頭ない。

 ぶっちゃけ、受験することさえできれば問題なく合格できる。

 ベッドに潜ったまま過去問をパラパラと眺めてみたが、見飽きた問題に嫌気がさしてすぐに床に放り投げてしまった。

 ごろんと寝返りをうち、壁にかけてある時計に目を向ける。

 時計の針は、午後四時を指している。

 もうすぐ、中学生が学校の授業を終えて下校する頃だろうか。

 ……芽衣も、学校から家に帰る頃だろうか。


「…………」


 数分枕に顔を埋めたあと。わたしは毛布を跳ね除けて、いつもの黒いコートを羽織ると何も持たずに家を飛び出した。

 芽衣、なんでメイルたんの配信止めちゃったの? なんで、何も言わないの?

 もしかして……あのあと、芽衣の身に何かあったの?

 今のままじゃ、落ち着いて受験に臨むこともできない。

 だから、これは今しなくちゃいけないことなんだ。

 わたしは、うっすら雪が積もった道を、駆け出した。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 以前芽衣の部屋に入ったときに掛けてある制服を見ていたから、芽衣が在籍している中学校はわかっていた。


「ここ……だよね。芽衣ちゃんの通っている中学校」


 わたしはその中学校の校門前に着くと、学校から出てくる生徒たちを観察し始めた。

 この中学校は、学年ごとに制服のリボンの色が違う。二年生のリボンは、ピンク色。だから、ピンク色のリボンをつけた子に聞いて回れば、きっと芽衣を見つけることができるはずだ。

 ……ピンク色のリボンをつけた女子中学生、片っ端から声を掛けてやるぜ。

 自分が女でよかったと思う。男だったら即通報即逮捕のコンボを喰らうところだった。危ない危ない。

 わたしは二人以上で歩いているピンク色のリボンをつけた子を見つけると、さっそく声をかけてみた。


「ちょっといいかな、聞きたいことがあるんだけど」

「え……な、なんでしょう」


 わたしの身長が高めなことに加えて、見た目も中学生から見たら派手なので、怖がられることはわかっていた。

 ひとりでいる子にいきなり声をかけて、質問に答えろというのは酷な話である。

 でも、何人かでいる子たちなら、急に逃げ出すことはないだろう。

 そう思って、複数人でいる子を狙って声をかけ続けたのだ。

 そう、声をかけ続けた。それなのに。


「ひとりも芽衣ちゃんのことを知っている子がいない……なんで!?」


 源芽衣の名前を出して聞いてみても、みんなそんな子は知らないと言う。

 こんなに探して全く何も情報がないって、どういうこと?


「いくら芽衣ちゃんが学校でぼっちだったとしても……みんな知らないって……そんなことある?」


 わたしは焦って周りを見渡した。

 一応わたしがいるところは学校の敷地外とは言え、校門前であんまり長居していると怒られそうである。

 そうしていると、部活動が終わったのだろうか、生徒たちの塊が出てくるのが見えた。

 わたしはそのグループを一目見て、直感した。

 あれは間違いなく、この学校でもトップカーストのグループだ。明らかに他の子たちとは雰囲気が違う。

 わたしもかつてはそういうグループに属していたからよくわかる。

 ああいうグループの子たちなら、同じ学年の生徒を幅広く把握しているはずだ。

 わたしは走ってそのグループに突撃して、声をかけた。


「きみたちいいいいい、ちょっと聞いてもいいかな!??」

「ひいいいいいい! な、なに!?」


 プレミした。完全に怖がらせてしまった。

 わたしは息を整え、冷静に優しいお姉さんを装って改めて声をかける。


「ごめんごめん。ちょっと聞きたいことがありまして」

「は、はあ……なんですあなた?」

「源芽衣って子を探してるんだけど、友達でさ。今日学校、来てたかな?」

「源芽衣……?」


 何人かが首を傾げる。そんな子は知らないという反応だ。

 この子たちでも知らないって……なんで? なんでみんな、知らないの?

 わたしががっくり肩を落とすと、後ろのほうにいたひとりが声をあげた。


「源さん? んー、たぶん来てなかったと思いますよ」

「え」


 わたしと一緒に、その場にいた他の女の子も声をあげる。


「知ってるの? そんな子いたっけ?」

「いるよ、うちらと同じクラスじゃん。話したことはないけど」

「え、うそ? まじ?」


 やっと、芽衣のことを認識している生徒を見つけた。

 いや、でも……同じクラスなのに、それなのに知らないって。そんなことあり得る?


「たぶん、って……芽衣ちゃんって、そんなに学校では影薄いの?」

「うーん、影が薄いっていうか……」


 わたしはその後にその子が言った言葉を聞いて、戦慄した。


「源さんが話しているところって、一度も見たことがないので」

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