第30話 源芽衣は「 」
わたしは思わず口角が上がるのを悟られないよう押さえつけながら、冷静に芽衣に話しかけた。
「ですね。それにしても、麻子さんがそんな能力を秘めていて、しかもそこまで考えていたなんて……さすがですね」
「いやいやそれほどでも」
そんなふうに言われると良心が痛む。
しかしモアに言ったことは事実だ。
闇の魔王と呼ばれるぐらいなら、わたしの闇の魔法と同じようなことができるはずである。
もちろん、芽衣や華蓮が魔王の魔力が尽きるまで攻撃し続ける……という倒し方があるのかもしれないが、あえて言わなかった。
芽衣にあんまり無理させるわけにはいかないからね。
「それじゃ芽衣ちゃん、モアもいなくなったわけだし……一緒にどこか遊びにでも行こうか」
「え、特訓しないんですか?」
「え、特訓するつもりだったの?」
モアもいないのに真面目に特訓するつもりだったことに驚きである。
当然今日はこのまま一緒にデートの流れだと思っていた。
こほんと咳払いして、言い直す。
「芽衣ちゃん、毎日学校に特訓、さらには配信活動とお疲れでしょう? たまには息抜きも必要だと思うんだよ」
「はあ。わたしは平気ですが」
「平気じゃない! 絶対芽衣ちゃんの身体は悲鳴をあげているはずだから!」
芽衣の肩を掴んで揺らす。がくがくと揺れる芽衣。
「た、たた、確かに……そうかもしれないのです」
「で、でしょ!? それならさ、わたしと一緒に」
「今日は帰ってゆっくり休むことにするのです。お疲れさまでした、麻子さん」
「待って芽衣ちゃん! 話したいことがあったのをすっかり忘れてたよ!」
このままだと解散の流れになってしまう。
なんとか芽衣の気を引かなければ。
「あ、あのさ。芽衣ちゃんは何か叶えたい願いってあるの?」
タオルで首筋の汗を拭っていた芽衣の動きが、ぴたりと止まった。
芽衣の返事はない。
「ほら、魔法少女って魔王を倒すとモアが願いを叶えてくれるって話でしょ。芽衣ちゃんも、何か叶えたい願いがあるのかなって思ってさ」
「わたしの願い……」
芽衣はふーっと息を吐くと、タオルを首にかけてわたしの方を振り向いて言った。
「それはもちろん、叶えたい願い事ぐらいありますよ。でも……モアに叶えてもらいたい願い事は、ないですね」
にっこり笑って芽衣は言った。
それって、自分の願いは自分の力で叶えたい、そういうこと……?
だとしたら意識高すぎるよ芽衣ちゃん!
「そ、そうなんだ……さすが芽衣ちゃん」
「でも、どうして急にそんな話を?」
「あ、それがね。この前華蓮に会って……」
わたしは、前に華蓮から聞いた話を掻い摘んで話した。
魔王を倒して、妹の病気を治そうとしていること……そのために、華蓮はモアの話を二つ返事で引き受けて魔法少女をしていることを話した。
「……そんな理由があって、華蓮はがんばって魔獣を倒してたんだ」
「へぇ……あの炎の人に、そんな事情があったんですか」
「そうなんだよ、びっくりだよね。あんなトゲトゲしてた子だったけど、実は優しいお姉ちゃんなんだよ華蓮って」
「……そうですね」
「だから、わたしも華蓮には協力してあげようと思って……よかったら芽衣ちゃんも」
そこまで言って、わたしは声を出すのを止めた。
空気が変わったような気がしたからだ。
……あれ? わたし、何かまずいこと言っちゃった……?
そう思っていると、芽衣のほうが先に口を開いた。
「そういうことなら、わたしも協力しますよ。あの人の魔王退治」
「え、あ……ほんと? よ、よかった。芽衣ちゃんならそう言ってくれると思ったよ」
ほっとして芽衣の顔を見る。芽衣は、さっきと変わらずにっこりと笑っていた。
でも、なんでだろう。
わたしには、芽衣の目が笑っていないように見えた。
「そういうことなら、ますますわたしたちも魔力を鍛えないといけませんね。少しでも魔王退治の力になれるように」
「そ……そうだね」
「そうと決まれば、特訓再開しましょうか。ほら、麻子さんも闇魔法使えるようになったんだし頑張りましょう」
「そ……そうですね」
あ、あれ? 何か選択肢間違えたかな?
デート……できんかった。
結局その後、わたしと芽衣はしばらくお互いに魔法を繰り出して魔力を鍛えていた。
わたしの魔法が芽衣の風魔法を無力化できるので、芽衣も思い切り魔法が使えて楽しそうだった。
ふたりで特訓している時間は、疲れるけどわたしにとって最高に楽しい時間だったのだ。
だから、こんなことになるなんて思わなかった。
その日を境に、メイルたんの配信が途絶えたのだ。
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