第28話 麻子が覚えた違和感とは
「なるほどね……華蓮、あんた良いお姉ちゃんしてるんだね」
「うるさい。茶化さないで」
「茶化してない茶化してない。大真面目。正直見直したよ」
わたしとモアは、さっきまでいた喫茶店に戻り、華蓮の話を聞いていた。
華蓮の話をまとめると、こうである。
華蓮には年の離れた小学生の妹がいるが、生まれたときから身体が弱く、病院に入院していることが多いそうだ。
今は薬で症状を和らげているが、重症化すれば命に係わる危険な病気なのだと言う。
華蓮は、妹に元気になってほしい、他の子と同じように普通に学校に通えるようになってほしい……そう思って、モアの話を二つ返事で受け入れたと言うのだ。
「最初に会ったときは華蓮のことろくでもないヤンキーだと思ってたけど。人は見かけによらないとはよく言ったものね」
「なんでそんな上から目線なの。あと、別にわたしはヤンキーでもない」
わたしが頼んだチョコレートデラックスパフェを勝手に摘まみながら答える華蓮。
普段ならビンタしてるところだが、今回は許してあげることにした。
「最初っからやたら魔王討伐に固執してるとは思ってたけど。そういう事情があったんだね」
「ふん……だから魔王と戦うときは、後ろでわたしのサポートでもしてることね。魔王を倒して願いを叶えるのは、このわたしなんだから」
「うんうん、そういうことなら協力してやらんでもないな」
「はいはい……え?」
華蓮はパフェを口に運ぶ手を止めて、ぽかんと口を開けた。
「今……なんて?」
「協力してあげるって言ったんだよ。そんな事情があるなら、最初から言ってくれればよかったのに」
「い……いいの? だって、なんでも願いが叶うんだよ? あんただって、何かかなえたい願いがあるんじゃないの?」
「わたしは……いやなんでもない、わたしには華蓮のような事情があるわけじゃないからさ」
リア充を滅したい、とかいう冗談をモアに話していたことは黙っていることにした。
「芽衣ちゃんだってきっと協力してくれるって。華蓮の魔王退治」
「……そうかな。あの風の魔法少女……なんかわたしに敵対意識もってそうだったけど」
「そりゃあんたが挑発したからでしょ。言っておくけどわたしメイルたん信者だから、そこんとこよろしく」
「何言ってるのかさっぱりわからないんだけど……」
華蓮がわたしのチョコレートデラックスパフェの七割以上を平らげて言った。
いくらなんでも食べすぎである。
普段ならビンタした上で領収書を叩きつけているところだが、華蓮の少し嬉しそうな顔を見て今回は許してあげることにした。
華蓮は間違いなくクソガキだが、かわいいところもあるものだ。
「てかさ、モア? あと何体倒せば魔王は出てくるの?」
華蓮が口についたクリームを拭きながら、わたしの頭の上に乗っているモアを見上げて言った。
「わたし早く魔王倒したいんだけど……一体あと何匹雑魚狩りしなくちゃいけないのよ」
華蓮の言葉を聞いてモアが首を傾げた。
「何言ってるぽん華蓮。魔獣をいっぱい倒したからって、それで魔王が出てくるわけじゃないぽん?」
「え?」
華蓮が驚いたような声をあげる。
でも、わたしはそれを聞いてすぐに理解した。
「あ、そっか。そりゃそうだよね。魔獣は魔王復活のためのエネルギーを人間から集めているんだから……その魔獣倒してたら、永遠に魔王は復活しないってことだよね」
「え……え?」
華蓮が目を見開いてこっちを見る。
「え、え? どういうこと? 魔王って、魔獣狩ってればそのうち出てくるんじゃなかったの?」
「華蓮、わたし以上にモアの話聞いてなかったか。どうもそうみたいだよ?」
「……聞いてない」
華蓮がギロッとモアを睨む。
「いや、伝えたはずだぽんが……でもそれがどうしたぽん? 魔王が復活したら人間界も大きな被害を受けることになる。魔王復活はなんとしてでも阻止しないといけない。だから、魔法少女の使命は何も変わらないぽん」
「そんなの関係ない! わたしは! 願いを叶えるために……!」
華蓮が腕を振り上げて一瞬声を荒げたが、すぐにその腕を下ろして言った。
「……いや、なんでもない。わたし帰る」
華蓮は、小さな声でそう言うと、乱暴にカバンを担いで駆け足で店を出て行ってしまった。
「……華蓮?」
モアが心配そうな声を出した。
華蓮は、どうも危なっかしい。願いを叶えるため……妹のためなら、多少の無茶も厭わない。そんな気がする。
だから、わたしがちゃんと見ていないといけないだろう。
華蓮のためにも、わたしは魔法少女をしなければならないだろう。
そんなことを思いながら、わたしは出て行った華蓮を目で追いかけつつ今日あったことを思い出していた。
……わたし、何かを忘れているような気がする。
今日見た光景で、何か、強烈な違和感があったような気がするのだ。
あれ……なんだろう、これ? 何かを見落としているような気がする。
わたしが覚えた違和感。きっと大事なことのはずなのに。
でも、今のわたしには、それが何なのかわからなかった。
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