第27話 黒瀬麻子の魔法とは②
「……おりゃ!」
かわいくもない小さい掛け声と一緒に、わたしの手から出てきたもの。
それは……不気味な漆黒の闇、そのものだった。
「うわ……うわうわうわ! なにこれ気持ち悪っ!」
飛び跳ねて後ずさる華蓮。
「気持ち悪て。なんてこと言うの華蓮」
わたしは自分の手から出てきた黒い塊を見つめながら言った。
「……いやわたしも同感だけど」
正直ドン引きである。
なにこれ? なんかもやもやした霧のような……しかし光を全て呑み込んでしまうような……そんな漆黒の闇がわたしの前を覆っていた。
「モア……なんなのこれは」
「いやぼくに聞かれても……そもそも闇の魔法なんて見たこともないし……」
「これ、魔獣にぶつけてみる?」
「できるぽんか……?」
ちら、と魔獣の方を見る。
魔獣もばっちりこちらを見ていた。
「……あ」
華蓮が飛び跳ねたせいである。
完全に気付かれていた。
「みいいいいいいい!」
甲高い声を上げながら、魔獣がまっすぐこちらに向かってくる。
「うわ! こっち来た!」
「ほら麻子! 早く早く!」
「どうすればいいのこれ!? どうやってこの闇動かすの!?」
「来てるって来てるって! ちょっと……どいて!」
華蓮はわたしを押し退けると、両手を前に突き出して指で三角の構えを作った。
「業火滅却……! 火祭りシリーズ! 其の弐(メインイベント)!」
華蓮の両手が真っ赤に燃え上がる。
ちょっと待て近い! 熱い熱い熱い!
わたしが巻き添え喰らって火傷しそう!
反射的に手で顔を覆ったわたしを、不気味な黒い闇が包み込んだ。
「『送り火・大文字』!」
華蓮の声と同時に、黒い闇の隙間から紅い光が見えた。
前に見た『花火』みたいな全体攻撃とは違う、一極集中の業火。
両手から、渦巻いた炎が真正面に放たれた。
その威力は凄まじく、熱風に煽られたわたしはその場に尻もちをついてしまった。
まずい、巻き込まれる、わたしも熱風に焼かれる……そう思った。
でも、そうじゃなかった。
なぜかわたしの周りは、全く焼けていなかった。
炎の勢いに推されて目を閉じてしまったせいではっきりとは見えなかったが、わたしの周りで炎が消えてしまったように思う。
いや……消えたというよりも、何かに吸収されたような感じだ。
今のは、わたしの錯覚だろうか?
とにかくわたしは、全くの無傷だった。
もしかして、わたしの闇の魔法って……そういうこと?
薄目を開けて魔獣がいた方向を見ると、華蓮の業火の直撃を受けたであろうそいつは、眩い光に包まれて……消滅するところだった。
「はあ……はあ……思わず全力で撃っちゃったよ」
華蓮が肩で息をしていた。
どうやら、今の魔法はかなりの体力を消費したようだ。
「あ、ちょ……あんた大丈夫だった? 巻き添え喰らってない?」
華蓮が手を伸ばしてくれた。
わたしはその手を握り返し、ゆっくり起き上がる。
「う、うん……華蓮ね、もう少し加減しなさいよ……」
「あんたがさっさと魔法使わないからでしょ。というか、よくあれだけ近くにいたのに何ともなかったね。さすがわたし、ナイスコントロール」
「いや華蓮絶対そんな力調整してないでしょうが」
わたしは立ち上がり、服についた雪や土を払った。
「それよりなんなのあんたの魔法。あんな気味悪い暗闇、初めて見たんだけど」
「わたしがわかるわけないでしょ。わたしなんて初めて魔法使ったんだから」
わたしが出したその暗闇は、気が付くと消えてしまっていた。
それに、なんだか身体が重い。今のでも、魔法を使った、ということになるのだろう。
モアのいうとおり、魔法を使うにはそれなりに体力を使うようだ。
「今のが闇の魔法少女、麻子の魔法ぽんか」
モアがわたしの頭に乗る。
「闇の魔法……ぼくも初めて見るぽんが、一体どんな効力があるのかよくわからないぽんね」
「モアでも? 魔王と同じ闇属性なんじゃないの?」
華蓮が息を整えながら口を開く。
「闇の魔王が封印されたのは遥か昔の話だぽん。かつて光の魔法少女が封印したという魔王ぽんが……実際の力はぼくもよく知らないんだぽん」
光の魔法少女……昔はいたんだ。
というか、闇属性のこと何も知らない状態で戦おうとしていたんだ。
そんな状態でわたしたちを魔王と戦わせようとしないでほしい。
「そんなんじゃ魔王と戦うときが思いやられるよ。わたしは早く魔王を倒さないといけないんだから」
「華蓮はほんとにやる気満々だね。……さっき言いかけた願いが関係してるの?」
さっきはモアのせいで聞きそびれてしまったが、華蓮には叶えたい願いがあるようだ。
そのために魔王を倒して、モアに願いを叶えてもらうつもりなのだろう。
「……別にいいでしょ、あんたには関係ない」
「華蓮は妹のために戦っているんだぽん」
「ちょっと!」
華蓮が大きな声でモアを制止しようとする。
「い……妹?」
「いいから。あんたには関係ない」
「もーなんでそんなこと言うの。かわいくないんだから。さっきはわたしも戦えるようになりなさいとか偉そうに言ってたじゃん?」
華蓮はまだ中二病の治っていない生意気な女子高生だ。
反抗的になるのもわかるが、一緒に戦うこともあるのならちゃんと事情は知っておきたい。
「聞かせなさいよ、華蓮の事情。じゃないとわたし、戦えないよ?」
「……別にあんたの力なんて期待してないし」
そう言いながらも、華蓮は俯いて、辛そうな顔をしていた。
「ほら、言ってごらん。華蓮の願いって、なに?」
ぽんぽんと頭をなでながら、甘やかすように問いかける。
華蓮は一瞬むっとしたような顔をしたが、おとなしく俯いてしまった。
「わたしは……わたしの妹が……」
華蓮は下唇を噛んでから、ゆっくり口を開いた。
「妹が……病気で入院しているんだ」
ぽつりぽつりと、華蓮が話し始めた。
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