第24話 麻子と華蓮のひとやすみ
三人目の魔法少女に出会ってから、数日が経った。
モアは相変わらず度々現れてわたしに体力トレーニングをさせようとしてきた。
芽衣が一緒に特訓する日はやる気を出してついて行ったが、そうでないときはやる気皆無。
テキトーにだらだらと走ってすぐギブアップしていた。
それでも数日身体を動かしていたおかげか、ここ最近は体調も良く、身体が軽くなった気がする。
今なら魔法も使いこなせるかもしれない。
しかし、今日はとてもじゃないが特訓できる状態ではなかった。
何を隠そう、筋肉痛がひどいのである。
こんな状態で走ったら死ぬ。
今日はモアが来る前に家を脱出することにしよう……そう思って、わたしはお気に入りの黒いコートに身を包み、カバンに一冊だけ参考書を入れると、外に出た。
「寒っ……」
今日も相変わらず外は寒い。
雪が残ってはいるものの、歩道は雪解けされていて歩きやすい。
これなら少し遠くにでも歩いて行けそうだ。
外をゆっくり歩いていると、制服に身を包んだ中高生がちらほら歩いているのを見かけた。
そっか、もう冬休みも終わりなんだ。
つまり、わたしの入試も近づいてきたということである。
うーんおかしいな、最近したことと言えば体力トレーニングぐらいだ。
どう考えても受験生がこの時期にすることではない。
とりあえず、どこかのお店に入ろう……そう思って、わたしはできるだけ人が少なそうな店を探すことにした。
裏道に入ったところに、ちょうどいい感じの喫茶店を見つけたので入ることにした。
少しレトロな、個人経営の喫茶店。
うん、雰囲気の良い店だ。わたし好み。
入ってすぐ、コーヒーのいい匂いがする。
入り口から見た限り、ほとんど客もいないみたいだ。
わたしはサンドイッチとコーヒーを購入すると、迷わず隅っこの席に向かって歩き始めた。
ひとりでゆっくりするには、隅っこの席に限る。
しかし、そこには先客がいた。見たことのある顔。
……華蓮である。
「「あ……」」
お互いにきまずそうな声をあげる。
制服を着て、おそらく学校帰りであろう華蓮は、隅っこの席でひとり寂しくジンジャーエールを飲んでいた。
やっぱりこの子、高校生だったか。
「……どうも」
「あ……ども」
全く会話が続く気配はない。それにしても、なんでこんなところでひとりでいるんだこの子は。
ひとりで縮こまってずずずとジンジャーエールを飲んでいる華蓮は、以前会ったときよりも随分小さく見えた。
「……なにしてるの、こんなところで?」
わたしは向かいの席に座り、華蓮に聞く。
「ちょ、なんでそこ座るの」
「え、だめ?」
「だ、だめじゃないけど……」
「じゃ、いいじゃん」
なんだか恥ずかしそうにしている華蓮。
どうやらこれがこの子の素の姿らしい。
人見知りなのかな? 急に愛おしくなってくる。
「んで? 何してるのこんなところで」
わたしは机に置いたサンドイッチを頬張りながら聞く。
「何って……なにも。ちょっと休憩してただけだけど」
「ふーん……今日学校は?」
「今日は始業式だけ。もう終わったの」
「ああ、なるほど?」
「……今あんた、始業式の帰りにひとりでこんなところにいて寂しいやつって思ったんでしょ!」
「え、いやいやいや。思ったけど大丈夫、わたしも今ひとりだし」
「否定しなさいよ! わたしはあんたとは違うの!」
声を荒げながらも抑えめの声で怒鳴る華蓮。
「わたしはあえて友達を作らないの! あえてね!」
「うん」
「なんでわたしがあんな低レベルな人間と仲良くしなくちゃいけないの、って話なの!」
「うんうん」
「群れなきゃ生きていけない人間って本当に弱いわよね!」
「うんうんうん」
「って! 全然人の話聞いてないでしょ!」
「うんうんうんうん」
「だからそういうところは否定しなさいよ!」
席から立ち上がる華蓮。
つい面白くてからかってしまった。いけないいけない。
それにしても、この子も陰キャ側の人間だったか……まあ、あの奇妙な中二病キャラでは無理もない。
魔法少女って、こんなのしかいないのかな?
まあ、今のわたしにとってはありがたいんだけれども。
サンドイッチをひとつ食べ終わり、口を開く。
「わかったわかった。わたしもひとりでいるの嫌いじゃないし、別に悪いことだとも思わないよ」
「……そ、そう?」
おとなしく席に座り直し、わたしのサンドイッチに手を伸ばす華蓮。
ぴしっと手を叩きそれを阻止。何勝手に食べようとしてるのこの子は。
「てか、あんたこそ。こんなところで何してるのよ。ここは穴場で、人が来ないことが良いところだったのに」
店に対して若干失礼な発言だが、大方同意なのでスルーして質問に答える。
「わたしはモアに見つからないように出てきただけ。勉強道具ももってきたし」
カバンから参考書を取り出す。
「……そういえば、あんたって何歳なの? 高校生? 大学生?」
「一浪」
「……あ、そう」
華蓮相手に見栄を張る必要性も感じない。わたしは正直に即答した。
「そうなんだそうなんだ。なら、わたしが勉強教えてあげよっか?」
にやにやしながら言う華蓮。
「いや、あなたまだ現役でしょ。何年?」
「二年」
「高二に教わることなんて何もないよ。高三の勉強をマスターしてから出直しておいで」
「いやいや。これでもわたしだいぶ賢いと思うよ?」
にやつきながら言う華蓮。どうやらわたしのことをお馬鹿だと思っているらしい。
ふうっとため息をつき、わたしはミルクを入れたコーヒーを混ぜながら優雅に言った。
「十位」
「え?」
「わたしの全国模試の最高順位」
そう、実はこう見えてわたしは勉強かなりできる。
こんな年下のメスガキに教わることなどなにもないのだ。
「十位……」
さすがの華蓮も呆気に取られている。
身の程を思い知ったか……そう思ってコーヒーをゆっくり啜っていると、華蓮がカバンをあさり始めた。
「わたしはこれ!」
そう言ってわたしの前に突き出してきたのは、全国模試の採点結果だった。
名前、樋本華蓮……うん、華蓮のだ。
……九位!?
「全国模試九位! はいわたしの勝ち!」
「ば、バカな……こんな見た目頭悪そうな中二病ぼっち女が……?」
「声に出てるから! 悪口!」
おっと、いけないいけない。
いや、だけど……この子が?
人は見かけによらないものである。
「だからわたしがあんたに勉強教えてあげる!」
「いやいいって……確かにあなたが賢いのはわかったけれども。なんかむかつくからいいや」
「ひどくない!?」
ふてくされたようにジンジャーエールを啜る華蓮。もうあまり残っていないようだ。
「……というか、あんたも勉強できるのに浪人してるんだね。入試、ミスったの?」
ぴた、とわたしの動きが止まる。
「入試のときは……いろいろあったの」
「……?」
そう、色々あったのである。思い出したくないこと。
あれは、雪が酷い日のことだった。
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