第21話 三人目の魔法少女②
ピンポーン。
再び部屋のインターホンが鳴った。
え、まさか……その新人魔法少女が、わたしの家まで押し寄せてきたとでも……?
「ちょ、ちょっとモア……あんたまさか、ここにその子を呼んだんじゃないでしょうね……?」
「はいはい、今開けるぽん」
「ちょちょちょ! 人の話を……!」
ガチャ、とモアが勝手に玄関のカギを開けた。
ゆっくり開いた扉の隙間から、小さなシルエットが見えた。
「……あけましておめでとうございます、麻子さん」
扉を開けて入ってきたのは、見たことのある顔だった。
もふもふの暖かそうなコートに身を包み、マフラーと手袋をつけた完全防寒。
頭の後ろにリボンをつけた幼い姿。
芽衣である。
「め……芽衣ちゃ~~~ん!!」
わたしは毛布を跳ね除け、ついでにモアも跳ね除けて芽衣を抱きしめる。
「ちょちょ……苦しいのです」
「会いたかった~~おいで芽衣ちゃん、外は寒かったでしょ?」
スマートにベッドまで案内していると、さっき跳ね除けたモアが間に割って入ってきた。
「なにしてくれるぽん! それに寝てる暇なんてないぽんよ!」
「うるせえ! 黙ってろ!」
「ええ!?」
いきなりの大声にさすがのモアも驚いたのか、固まっていた。
「さ、芽衣ちゃんおいで。ウェルカムカモン」
ベッドの上に横たわり、隣をぽんぽんと叩きながら添い寝を促す。
「いや、その……なんだか身の危険を感じるのですが……」
「何を言っているの芽衣ちゃん。わたしは芽衣ちゃんのことをいつも大事に思っているんだよ。危険なことなどなにもない」
「いつも、ってところがなんかもうやばいのです」
マフラーやコートを脱ぎながら、ベッドの方には目もくれない芽衣。
そのまま部屋の真ん中にある炬燵にもぞもぞと潜り込んでしまった。
うーん、ガードが堅いなあ……でもそんな反応もメイルたんっぽくて好き。
「それでモア。今日はその、新しい魔法少女に会いに行くのですか?」
「そうぽん。もうすぐここに来るはずだぽん」
「へー……ここに!?」
ベッドから飛び起きる。
「何勝手なことしてんの!?」
まさか本当にその新しい子をここに呼んでいるとは。
わたしの部屋、住み始めてもうすぐ十か月。ひとりたりとも招き入れたことなかったのに、今日だけで二人も入れることになってしまう。
ちなみにモアはカウントしないとする。
「いや、だって外寒いぽん」
「お前が言うな! え、え、ここに来ちゃうの……? 逃げられないじゃん……」
「逃げる気だったんですか……」
「だって、芽衣ちゃん以外の魔法少女なんて会うつもりないし」
「魔法少女が増えれば麻子さんの負担が減って良いんじゃないのですか?」
「それはそうだけど、芽衣ちゃんとふたりの時間が減るのはもっと嫌」
「…………」
芽衣がジトっとした目でこちらを見つけてくる。照れ隠しかな?
「ときに麻子さん、魔法は使えるようになりましたか?」
「え? ぜんぜん」
「……やる気ないですね」
ジト目から呆れ顔になる芽衣。
「いやいや、そんなことないよ? 少なくとも芽衣ちゃんと一緒になら戦おうとする気概はあるつもり」
「はあ……でも、今日来る魔法少女って強いらしいですよ? 麻子さんの出番、なくなっちゃいますね」
「ちょっとモアあああああ話が違うんだけどおおおお」
「おおっとあの子来るの遅いなー! ちょっとぼく迎えに行ってくるぽん!」
そう言うとモアは壁をすり抜けて外に出て行ってしまった。
モア……これでほんとにわたしの出番なくなったら許さんからな。
息を整えながら、ぐるっと芽衣の方を向く。
「芽衣ちゃん……そんなことないよ。わたしも芽衣ちゃんと一緒に戦うから」
「はあ……それならいいのですが」
くそっ、このままじゃ本当に芽衣と話す機会を失ってしまう。
それだけはなんとしてでも避けなければ。
何か話そうと考えていると、珍しく芽衣の方が先に口を開いた。
「というか……麻子さんは、なんで付き合ってくれるんですか?」
「え? わたしたちもう付き合ってるんだっけ?」
「何言ってるんですか怒りますよ。そうじゃなくて。麻子さん、魔法少女をやる気なんてなかったんですよね。それなら、新しい魔法少女が戦ってくれるのは願ったりかなったりではないのですか?」
芽衣は、わたしと視線を合わせないまま独り言のように言った。
炬燵に潜り込んで、視線はまっすぐ前を向いたままだ。
「……そりゃまあ、そうだけど。でも違うんだよ」
わたしはベッドから降りて芽衣に近付くと、頭を撫でながら言った。
「わたしはメイルたんに救われたの。だから、わたしも芽衣ちゃんには協力してあげたいんだ」
「…………?」
芽衣は、何を言われているのかわからないというように首を傾げた。
「……麻子さんが何を言っているのか、理解できないのです。わたし……いや、メイルがあなたのために何かしたことなんて、ないと思うのですが」
そう言う芽衣の頭を撫でる手を止めることもなく、わたしは言った。
「……ううん。メイルたんは、自分の影響力を甘く見ているかもね。わたしはメイルたんに、いつも元気をもらっているんだから」
芽衣の顔が赤くなるのがわかった。
「……よくそんな恥ずかしいこと、当人の前で言えますね」
「あれ、照れてる? もしかして照れてる? もー、かわいいな芽衣ちゃんは。ほら、早くおいで? せっかくふたりきりなんだから」
「だからそうやってわたしをベッドの上に誘うのはやめてくださいなのです……」
ふいと視線をそらす芽衣に、口元が緩むのを感じたがぐっと我慢。
わたしは立ち上がるとゆったりベッドに腰掛けて、芽衣の背中を見ながら言った。
「そういえば、芽衣ちゃんはどうして配信活動を始めたの?」
芽衣の背中が、ぴくっと動いたように見えた。
「……別に、なんとなくです」
「うそ。なにか理由、あるでしょ?」
「…………」
芽衣が俯いて沈黙が流れる。
あれ……なんか地雷、踏んじゃったかな?
じっと芽衣が口を開くのを待っていると、芽衣の口がぽそりと動いた。
「……メイルを作ったのは……ただ、見てもらいたかったからだけなんです」
「……え?」
すごい小さな声だったけど……なんて言ったのかは聞き取れた。
それは、すごく単純な話かもしれない。
芽衣ちゃんは、思った以上に寂しがりやなのだろうか。
だとしたら、わたしが……
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴った。
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