第20話 三人目の魔法少女①
芽衣やモアと会ってから、数日が過ぎた。
年が明け、世はすっかりお正月の様相を呈している。
体育館で特訓してからも、モアはわたしを無理やり特訓に連れて行こうとはしていた。
しかしわたしは、「芽衣ちゃんがいない日は絶対に行かない」という鋼の意思を伝え、なんとか特訓をさぼろうとしていた。
というか、そんなことをしている場合ではないのは事実である。
もう受験は目の前なのだ。
なにが悲しくてこの時期に走り込みなんかしないといけないのか。
さすがのモアもわたしの強固な意志に屈したのか、ここ数日間は姿を見せていない。
そこまで空気を読まない鬼畜というわけではなかったようだ。
おかげで、いまだにわたしは魔法とやらを一度たりとも使ったことがない。
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「はぁ~~~……寒……」
わたしは部屋の中央に配置した炬燵に潜り込み、テレビで動画を見ていた。
テレビといっても地上波の番組ではない。
ちゃんとテレビをインターネットに接続しているので、見ているのはもっぱらメイルたんのアーカイブや切り抜き動画である。
さすがに新年早々のこの時期では、メイルたんの生配信もお休みのようだ。
それなら正月特有の特別番組を見ればいいのではという話だが、ブイチューバーの配信を見るようになってからすっかりテレビは見ないようになってしまった。
多分今の若者はみんなこんな感じだと思う。
わたしはもそもそとみかんを頬張りながら、至福の時間を過ごしていた。相変わらずメイルたんはかわいい。
特訓はごめんだが、メイルたん、じゃなくて芽衣には会いたいのである。
お正月も忙しいのかな? 遊びに来てくれたりしないかな?
寒い中外を出歩くのは辛いので、家まで来てほしい。
そんなことを考えているうちに眠くなってきた。
全く家から出ていない上に、ずっとだらだらしているからかちょっと気を抜くとすぐに眠くなってしまう。
少し眠ろう……
お正月だろうか関係なく、昼寝でもしようかと思って炬燵から出てベッドに向かおうとしたその瞬間。
聞き覚えのある、嫌な声が聞こえた。
「麻子―! 久しぶりぽんね!」
おやすみ。
わたしは何も聞いていない。
何事もなかったようにそのままベッドに潜ろうとする。
「ちょっと! なにいつもどおりスルーしようとしてるんだぽん!」
ぼん! モアが顔面に体当たりしてくる。
「嫌だあああ……わたしは眠いんだあああ」
負けじと毛布にくるまる。
「新年早々相変わらずぽんね……もうちょっとこうなんか、『あけましておめでとう! 今年はがんばるね!』みたいな反応を期待していたぽんが」
そんなこと言うわけがないだろう。
声に出して反論したいところだが、毛布を頭からかぶって籠城体制に入る。
「やれやれ……今日は麻子に伝えたいことがあってきたというのに」
「……伝えたいこと?」
ひょっこり顔を出してモアの方を見る。
もしかして、もう芽衣が魔王を倒したからモアは異世界に帰るとか、そういうお話?
魔法を一回も使えなかったのは残念だが、仕方ない。
さすが芽衣だ。優秀な魔法少女。
「そっか……わかったよモア。さようなら、芽衣ちゃんにはよろしく言っておいてね」
「いや、意味わからんぽんが。何勝手に解釈してるぽんか」
「違うの?」
「とりあえず、麻子が思っているような内容ではないと思うぽん」
こほんと咳払いして、モアがにやりとわたしの顔に近づいてきた。近い近い。離れて。
「聞いて驚くことなかれ……なんと! この町に! 新しい三人目の魔法少女が誕生したぽん!」
…………は?
「いやーよかったぽんね、麻子。これで麻子の負担もきっと減るし。ということで、早速だけど……」
「なにしてくれてんの!?」
モアを両手でがしっと掴む。
「もご!? なにするぽん!?」
「そんなことしたら更に芽衣ちゃんに構ってもらえなくなるでしょ! モアのあほ!」
「えぇ……こいつ何言ってるぽん」
モアは呆れ顔である。しかしわたしにとっては大事なことだ。
「新しい魔法少女……? その子が芽衣ちゃんとふたりで魔獣討伐とか始めたら……わたしと会うこともなくなっちゃうよぉ。あああああ」
「いやいや……ほんと麻子は芽衣のこと好きぽんね。大丈夫だと思うぽんよ? 魔法少女が三人になったところで、麻子の出番が全く無くなるわけでもないし」
「……そうなの?」
モアの顔を見る。
「……た、たぶん」
「ほらあああああああ」
目を逸らして言うモアをぶんぶんと揺らす。
「タイムタイムタイム! 目が回るぽんんん」
はぁはぁと息を整えながらモアを離す。
なんてこった……こんなに早く新しい魔法少女が出てくるなんて。
こんなことなら、年末年始も芽衣のところに通うべきだった。
というか、最近モアがわたしのところに現れなかった理由って、それ?
新しい魔法少女が誕生して、その子に構っていたからわたしのところに現れなかっただけでは?
くそっ、ちょっとでもモアのことを信用したわたしが間抜けだった……!
……いや、待てよ。
ほんのわずかとはいえ、その新人魔法少女に対して、わたしは魔法少女としては先輩なわけだ。
新人魔法少女が芽衣みたいに優秀な魔法少女でなければ……わたしは先輩キャラとして、まだ存在価値を保てるはずである。
「モア、教えて。その新人魔法少女っていうのは、強いの?」
「それがもう! 最強クラスに強いぽん! すでに魔獣も討伐してるぽん!」
終わった。
なにもかもが終わった。
もう、わたしと芽衣との魔法少女生活は終幕を迎えたんだ。
「おやすみ。二度とわたしに話しかけないで」
「ちょっと!?」
毛布に潜り込んだわたしの頭の上でいつものようにモアがぼんぼんと跳ねる。
「前と同じようなことされても困るぽん! これからその新人魔法少女に会いに行くんだぽん!」
「こっちこそ、前と同じようなことされても困る。わたしは行かない。会いたくもない」
もごもごとやり合っているそのときである。
ピンポーン。
部屋のインターホンが鳴った。
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