第12話 黒瀬麻子の属性は①
わたしたちは、芽衣の家に戻ってきた。
モアから魔法少女の属性の話を聞くためである。
「芽衣が『風』属性で、風使い。そして、大当たりの属性が存在するってところまでは話したぽんね」
「うん」
わたしは、芽衣のベッドに横たわって話を聞いていた。
正直なところ身体はもう大丈夫だったのだが、芽衣が勧めてくれたので遠慮なく使わせてもらうことにした。
メイルたんのベッド……なるほどこれがメイルたんの……幸せ……
「……なんか麻子さん、顔が気持ち悪くないですか?」
芽衣ちゃんがジト目を向けてくる。
「え!? そそそ、そんなことないよ!」
危ない危ない、芽衣ちゃんのにおいを堪能していたことを気付かれてしまうところだった。
姉キャラとしての威厳を保つためにも、気を付けないと。
「……話を聞くぽん、麻子」
「あ、はいはい。聞いてるよ続けて」
「テキトーぽんね……まあいい、続けるぽん」
ため息をついて、芽衣の頭に着地するモア。
「当たり属性。それは、『光』属性だぽん」
「『光』……」
「相手は『闇』の魔王軍。闇は光に弱いんだぽん。光属性の魔法少女は、魔王に対して圧倒的有利をとれるんだぽん」
「ああ、そういうこと……つまり、相性がいいってことだよね」
これもRPGならよくある設定だ。
火属性は水属性に弱い。水属性は草属性に弱い。そういうことなのだろう。
「そういうことなら、光属性の魔法少女を集めて戦えばいいんじゃないの?」
それを聞いてモアは、首を横に振った。
「いないんだぽん」
「え?」
「光属性を持つ魔法少女は、ひとりもいないんだぽん」
ひとりもいない……?
なにそれ、どういうこと?
「そんなことってあるの? 光属性が、ものすごくレアな属性ってこと?」
「昔はいたらしいんだぽんけどね……属性はその人の性格、環境、遺伝……様々な要因によって決まるんだけど、光属性になれるような人間、しかも少女なんてそうそう見つからないんだぽん」
「へえ……」
「すべてにおいて優秀……しかも心も清らかで、正しさを持っている真人間……そんな人間、なかなかいないぽん?」
「……なるほどね。なんとなく、察しはつくよ」
たぶん、本当にアニメの主人公みたいないい子じゃないと光属性とやらにはなれないのだろう。
うん、そんな子は見たことない。少なくともわたしの周りでは。
現実とは非常なもので、そんな綺麗な心をもった人間はそうそういないのである。
魔法少女の適性を持ち、なおかつ光属性をもつ少女。
そんな子がひとりもいないことも頷ける。
「……それで? 自分の属性はどうやったらわかるの?」
「簡単な方法があるぽん。その名も、『珠玉審判』」
モアはさっき出した水晶玉のようなものを机に置いた。
両手に収まるぐらいの、丸い水晶玉である。
「この珠玉に魔法少女が魔力を込めると、色が変わるぽん。その色で、属性がわかるんだぽん」
「へぇ……」
わたしはベッドから起き上がると、その透明すぎるほどに透き通った水晶玉をまじまじと見つめた。
凄く綺麗だ。
それはもう、この世のものとは思えないくらいに。
いや、実際この世のものではないのかもしれないけど……
「ちなみに、わたしがやったときには黄緑色になったのです」
芽衣が水晶玉に手を当てる。
すると、水晶玉がうっすらと黄緑色に変色した。
「そうだぽん。黄緑色は、『風』属性の色だぽん」
「ふんふん……『光』属性の色は?」
「真っ白。一点の曇りもない、真っ白な色になるぽん」
モアは、水晶玉を撫でながら続けた。
「ぼくはまだ、その色に変わった珠玉を見たことはないぽんけどね」
「真っ白……」
もし……もしわたしが、光属性だったらモアはどんな顔をするのだろう。
きっとびっくりするだろうな。
もしかしたら、芽衣も尊敬の眼差しでわたしを見てくれるのだろうか。
魔王と戦うなんて嫌だけど……もしわたしが唯一の光属性だったら……そのときは、わたしが先陣を切って戦うことになるのだろう。
でも、それも悪くないのかもしれない。
そんなアニメの主人公みたいな女の子になれたら、きっと今のどうしようもない人生を明るくすることができるはず……!
わたしは水晶玉を手に取ると、モアに訊いた。
「魔力を込めるって、どうやるの?」
「今の麻子でも、珠玉に気持ちを集中するだけで大丈夫だぽん。どんな些細な魔力にも反応するから、それだけで色が変わるぽん」
「そうなんだ……それじゃ」
わたしは、水晶玉を両手で持つと……ゆっくりと、目を閉じた。
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