第11話 魔法少女の属性とは②

 外へ出る廊下を駆けて、靴を履いて外に出ると、すでにモアと芽衣が遠くを見て立っていた。

 運動不足のせいか、急に動き出すと身体がついていかない。ぜいぜい。


「ぜぇ、はぁ……ちょっと待ってよふたりとも」

「いたぽん!」

「いたのですよ」


 こちらを振り向くこともなく声を荒げるモアに若干の殺意を覚えながらも、モアと芽衣が指さす方向に目を向けた。

 そこにいたのは……なんだか黒い猫のような……耳を生やした、小さな小動物だった。

 うっすら雪が積もった道を二足歩行でちょこまか歩いている様子は、確かに普通の動物とは違うように見える。

 しかし。


「……へ。あれが魔獣……?」


 どう見ても可愛らしいモンスターである。

 なんならモアよりもかわいいような気がする。

 みーみー鳴きながら、なにやらうろちょろしているが……あれが危険な敵には、とてもじゃないが見えなかった。


「麻子さん……気を付けてください。魔獣は今、わたしが倒して見せますので」

「そ、そうなんだ……」


 モアと芽衣は真剣な顔をして魔獣(と呼ばれる変な猫みたいな生き物)との距離を慎重にとっているが、わたしは簡単に捕まえることができそうなその外見にすっかり油断していた。

 その油断が、魔獣にも伝わってしまっていたのかもしれない。

 魔獣がこっちを見た瞬間。急にこちらに飛び掛かってきた。


「ぎゃ!」

「ま、麻子さん!」


 わたしは不意を突かれて、魔獣に顔面パンチを喰らった。

 でも、全く痛くない。ぬいぐるみに顔にぶつかったような感触である。

 しかし、次の瞬間。


「……生まれてきてごめんなさい」

「麻子さーーーん!」


 急激に生きる気力を失った。

 もうダメだ。

 生きる希望をすべて失った気分。


「わたしは生まれ変わったら……メイルたんのお団子頭の髪留めになりたい」

「何気持ちの悪いこと言ってるんですか!? しっかりしてくださいなのです!」


 芽衣がわたしの肩を掴んで揺さぶるか、動けない。

 というか揺らさないでくれ。吐きそう。


「何を言っても無駄だぽん芽衣……魔獣のパンチをモロに喰らった人間は、しばらくこうなるぽん。ぼくらがすべきことは、早急にあの魔獣を駆除することだぽん」


 モアの呆れたような声を聞いて、芽衣はわたしから手を離す。


「ああ、メイルたん……行かないで……」

「どこにも行きませんから。ちょっとそこで見ていてほしいのです。魔法少女の戦い方」


 そう言うと、芽衣は立ち上がり魔獣の方に身体を向けた。

 次の瞬間、その魔獣はわたしのときと同じように芽衣の顔に向かって突撃してきたが……芽衣の方が速かった。

 芽衣は地面を強く蹴ると、宙返りで魔獣の突進を華麗に躱した。

 さすが魔法少女、身軽な動きだ。

 魔法少女になると、身体能力も強化されるということだろうか。

 突進を躱された魔獣は勢い余ってよろめいていたが、芽衣はその隙を見逃さなかった。

 着地した芽衣はそのまま魔獣に右手を向けると、呟いた。


「鎌鼬【かまいたち】」


 ぼっっと強い音がしたかと思うと……芽衣の周りでだけ、強い風が吹いた。

 正確には、「吹いたような気がする」、である。

 わたしの肌は、まったく風を感じられなかった。

 しかし、視覚的には風を感じた。

 芽衣の髪や服が風で靡いて、魔獣が勢いよく吹き飛ばされたのだ。

 魔獣は風に煽られ、みいいいいという鳴き声を上げた。

 すると魔獣の周りに暗い闇が現れ……ボシュっと音と共に、魔獣は消えてしまった。


「……え」


 呆気にとられるわたし。

 そう……突風により、スカートがめくれたのだ。

 当然、中身は丸見えである。

 白地にピンクの刺繍が施された、清楚な白い下着が……

 じゃない! 何を言っているんだ、わたしは!

 今のが、魔法……わたしには、芽衣が突風を魔獣にぶつけたように見えた。


「さすが芽衣だぽん。今回も圧勝。見事魔獣を退治することに成功したぽんね」

「運がよかっただけなのです。今回も、真正面から飛び込んできてくれたから」


 満足そうにしているふたり。

 ……勝ったの? これで終わり?


「今のが、モアの言ってた魔獣なの……?」


 まだ力が出ず、地べたに座ったまま尋ねる。

 あ、また芽衣ちゃんのスカートの中見えそう。


「そうだぽん。今のが恐ろしき闇の軍団『ネグロ』の魔獣だぽん」

「随分かわいい魔獣もいたものだね……」

「麻子には芽衣が簡単に魔獣を倒したように見えたかもしれないけど、実際はそんなことないんだぽん」


 モアが飛んですぐ近くにやってくる。


「麻子も経験したように、魔獣に一度攻撃されると無気力状態になってしまうから。どんなに強い魔法少女でも、魔獣の攻撃をまともに喰らったらダメなんだぽん。それに、魔法を使うには莫大な魔力を使うから本人の体力も……って! 聞いてるぽんか!?」


 くったりと地べたに寝転んだわたしを見て叫ぶモア。

 いやー……だめみたいですね、これ。全く力が出ない。

 何もかもがどうでもよくなるこの感じ……ああ、これが闇に飲み込まれるってことなんだね……おやすみ。


「こんなところで寝るなぽん~」


 目を閉じてそのまま寝そうなわたしの腕を、モアが引っ張り起こそうとする。

 あ、ダメ力が出ない。このまま寝かせてほしい。

 そんなことを思っていると、芽衣もわたしの腕を引っ張ってくれた。

 あ、うれしい。起きよう。


「んしょ……これが魔獣の力なんだね……」

「そうなのです。どうも、人間のエネルギーを吸い取ってしまうみたいですよ。それが、魔王復活のエネルギーになるとかで……」


 芽衣に引っ張られ、なんとか身体を起こす。


「これでわかったぽん? 麻子も、すぐに魔力が使える魔法少女になる必要があるぽん。そのために」


 モアの周りが歪んだかと思うと、モアは水晶玉のようなものを何もない空間から生み出した。

 おお……魔法使いっぽい。


「さっきの話の続き。属性の話をするぽん」

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