第8話 黒瀬麻子は興奮している
「源芽衣、中学二年生です。風の魔法を使う、『風の魔法少女』です」
風の魔法少女。そう言った芽衣の声は、はっきり聞こえた。
その瞬間、わたしの脳内に体験したことのないような衝撃が走った。
「お……思い出した!」
がっしと両手で芽衣の肩を掴む。
「芽衣ちゃんの声! どこかで聞いたことあると思ってたけど、メイルたんだ!」
「え、あ」
クールな表情をしていた芽衣ちゃんの顔が、一瞬強張る。
「メイルたんじゃんメイルたん! いつも配信見てる! え、え、まさかこんなところで出会えるなんて!」
「な、なんのことでしょう……メイルなんて知りませんが……」
目を泳がせながら視線を逸らす芽衣。
平静を装っているが、動揺しているのが丸わかりだ。
「こんめる~」
「あ、こんめる~来てくれてありがとなのです……はっ!」
慌てて口を押さえる芽衣ちゃん。
しかし手遅れである。
「やっぱり……! 本物のメイルたん! この声、このキャラ! 間違いない!」
つい昨日も配信で聞いていた声の主が目の前にいるということに興奮してしまい、顔を近づける。
ちょっと動けば鼻が触れるほどの距離感だ。
「え、え、めちゃめちゃかわいいんだけど……なにこれ、持って帰っていいのかな?」
「は、離れてください……とにかく……一度その手を離してもらえますか」
「はっ、ごめんごめん……目の前にいつも見てるリアルメイルたんがいると思うとつい……えっと、とりあえず抱きしめてもいいかな?」
「いいわけないのです。なんだか身の危険を感じます。あと、面と向かってその名前を呼ぶのやめてください」
えー? 女の子同士なんだからこれぐらい許容範囲だと思うんだけどなあ。
しぶしぶと肩を掴んでいた手を離す。
「まさかこんな近くにわたしの配信を見ている人がいるなんて……リアルでわたしの配信活動に気付いた人は、あなたが初めてなのです」
「え、ほんと? メイル……芽衣ちゃん、中学生なら学校の友達に気付かれちゃうんじゃない?」
「わたし、学校ではひと言も喋りませんから」
「…………」
こ、この子だめだ……わたしが守ってあげないと!
配信でのキャラは、営業じゃなかったんだ!
やばいどうしよう、もっとおしゃべりしたい。
「えっとえっと、それで芽衣ちゃんは……」
「ストップストップ。その辺にするぽん。ここに何しに来たのか忘れたぽんか?」
モアがわたしと芽衣の間に割って入る。
「忘れるわけないじゃん、メイルたんと一緒に遊びに来たんだよね」
「全然違うぽん! 魔法の基礎を教えてもらうんだぽん!」
ぼんぼんぼんと頭の上ではねるモア。
すぐそうやって人の頭をぼんぼんするの、やめていただきたい。
頭が悪くなったらどうするんだ。
「それじゃ、お邪魔するぽんよ芽衣。ほら、さっさと入るぽん」
扉をすり抜けて芽衣の家に入るモア。
ちらっと芽衣の方を見ると、小さくうなずいて扉を開けてくれた。
どうやら、家の中に入る許可はいただけたみたいだ。
……メイルたんの家、入っていいんですか? えへへ。
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