第4話 黒瀬麻子は塩対応②
「なんでぽん!?」
あっさりとお断りしたわたしの返事を聞いて、モアが驚愕の声を上げた。
いや、そんな意外そうな反応されても……普通断ると思うんだけど。
「なんでじゃないよ……わたしは受験で忙しいの。そういうことなら他をあたって」
「世界の危機より受験を優先するとでも言うぽんか……?」
「うんそうだね。わたしにとっては受験の方が大事だから」
「鬼! 悪魔! 外道!」
さらにわたしの頭の上で跳ね回るモア。
ぼんぼんぼんと頭が動いて首がおかしくなりそうである。やめて。
そもそもそんなことをいきなり言われても困る。
そういう大事な話は事前にアポイントをとるのが社会の常識である。
いやアポイントあっても困るけれども。
「はあ……大体なんでわたしなの? 素質がある? なんの話?」
「よくぞ訊いてくれたぽん」
しまった。余計なことを訊いてしまった。
モアが待ってましたとばかりに口を開く。
「まず、魔王『キューリッヒ・ジュナスロー』が率いる闇の勢力……魔王軍『ネグロ』と対等に戦えるのは、魔法少女となった少女だけなんだぽん」
なに? きゅうり? まぐろ?
新しい単語をさらっと出すのはやめてほしい。
覚えられない。
「そしてその魔法少女になれるのは、魔力を操る力を持った少女だけ……キミは、大きな魔力を秘めた人間なんだぽん」
「ふーん」
何を言っているんだろうこいつは。
「いや、ふーんじゃなくて……もっとこう、何かあるんじゃないかぽん? いい反応が」
「なんでそんな反応求められなくちゃいけないの。わたしは嫌。興味なし」
「酷いこと言うぽん……」
「そんなわけで、魔法少女の勧誘は他をあたってね。わたしは魔法少女なんて絶対にならないから」
頭の上に乗っているモアを床に下ろして、今度こそと毛布に潜り込む。
「何を言っているぽん? キミはもう魔法少女になっているぽん」
「はあ!?」
毛布を跳ね除けて起き上がる。
「ぼくを認識したその瞬間、その子は魔法少女になるんだぽん」
「いやいやいや……いやいやいや!」
おかしいおかしいおかしい!
こういうのって、普通段取りがあるよね?
契約を結ぶとか! かわいい衣装に変身するとか!
「ぼくはこの世界の普通の人間には認識できない異世界生物。そんなぼくを認識した時点で、キミはこの世界との歪みが生まれ、魔法少女となるんだぽん」
「……なにそれ詐欺? というか当たり屋?」
「あっはっは、何を面白いことを」
「笑い事じゃないから。そんなの納得するわけないでしょ」
「でもこれまで被害届が出されたことはないぽん?」
「出しても無駄だからでしょ……」
異世界生物が被害届とか言うんじゃない。
違和感ありまくりでしょうが。
「え、じゃどういうこと? わたしもう魔法少女になっちゃったの?」
「だからそう言ってるぽん」
「それじゃ、魔法が使えたりするの?」
「お? ちょっと嬉しそうだぽん?」
うっ。
だ、だってね?
そりゃ気になるよね?
そんなにやにやした顔でこっちを見るんじゃない。
「確かに、もう魔法少女になったキミは魔法が使えるぽん。ただし」
「ただし?」
「魔法を使いこなすには、己自身を鍛える必要があるぽん」
「ええ……なにそれめんどくさい。魔法ってそんな感じなの?」
「RPGでレベル上げするのと同じようなものだぽん」
「あんたホントに異世界生物なの?」
さっきから発言がちょっとおかしいよ。
こっちの世界に染まってるよ。
「とにかく! これからキミは立派な魔法少女になって、闇の魔王『キューリッヒ・ジュナスロー』を討伐して欲しいんだぽん」
……本当に好き勝手言ってくれる。
わたしは痛む頭を押さえるために、眉間に手を当てながら言った。
「……報酬は?」
「え?」
「あるんでしょ? 魔王きゅうりを倒したときの、ご褒美みたいなもの」
こういうのは当然あるはずである。
達成したときのご褒美が。
「それを自ら訊くぽんか……というかきゅうりって何だぽん。『キューリッヒ・ジュナスロー』だぽん」
なんであんたがドン引いているんだ。
こんなこと急に押し付けてくる方が理不尽だからね?
わたしは悪くないぞ。
「まあ……確かにあるぽん。魔王を倒したときは、報酬が」
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