第5話 黒瀬麻子は塩対応③
「やっぱりあるんだ。そういうの」
モアが言っている「闇の魔王」とやらを倒したときの報酬。
当然あってしかるべきだろう。
「魔王討伐に成功した魔法少女は……」
にやりと笑いながら溜めるモア。
そういうのいいから、はよ言わんかい。
「なんでも願いを叶えることができるぽん!」
……………………。
「はあ……」
「え、なんで溜息? 普通食いつくところだぽん」
わたしの反応に不満そうなモア。
「いや、随分と頭の悪い回答だったから。なんでも、ねえ……」
こういうのが本当になんでもかどうかは疑わしいものだ。
大抵の場合制約だの何だのあって、碌なことにはならない。
「ははん、さては信用していないぽんね? 本当になんでも、ぽんよ?」
「不老不死とか、億万長者でも?」
「凡庸な願いぽんね。朝飯前だぽん」
ほう……? このレベルの願いでもいけるらしい。
それだけ、その魔王討伐の難易度が高いということなのだろうか?
「へえ……本当になんでもいいんだ」
「約束するぽん。ちなみに、キミは何かかなえたい願いがあるぽん?」
「わたし? わたしは……」
腕を組み、目を閉じて、ゆっくり口を開く。
「この世界からリア充を滅する」
「は?」
モアの顔が露骨に曇った。
「そうだね、まずは恋人がいる人全員。それからお金持ち。あと、なんか生活が充実している人……毎日を楽しんでいる人。あ、もういっそ大学生全員とか!」
「……を、滅するのが願い?」
「うん」
こくりと頷くと、モアがうーんと顔をしかめて言った。
「お前……悪魔か? さすがに引くわ」
「これから魔法少女に引き込もうって相手になんてこと言うのよ。あと口調変わってる。キャラ崩壊するでしょ」
「はっ、いかんいかん……あまりの下衆っぷりについうっかりしたぽん!」
うーん、お帰りいただきたい。そろそろ手が出そうだ。
「あのねえ、そんな言い方するなら帰ってくれる? 今のはかわいい冗談みたいなものでしょ。わたしは今忙しいの。それに機嫌も悪い」
「やれやれ困った子だぽん。普通はもっと前向きな願いを嬉しそうに話すものだぽんが」
放っといてくれ。それは将来に明るい希望を持つ人の考え方だ。
わたしは自分を高めるより周りを蹴落とすことで自分を保ちたいね!
……あれ、おかしいな。涙が出そうだ。
「魔法少女は喜んで引き受けてくれる子が多いのに、キミみたいな子は珍しいぽん」
「ん……ん? てことは、他にもいるってことだよね? 魔法少女になった子が」
「いるぽんよ。この国だけでも、十人はいるぽんね」
「なんだそれだけ?」
そんなに少ないんじゃ、他の魔法少女と協力することもできないのではないだろうか。
まあ、それは別にいいんだけれども。
正直最近は人と話すことがなさすぎて、知らない人と会話をすることも億劫なのである。
「でも、この町は特別だぽん」
「特別……?」
「この町は、異様に魔力が強いぽん。だから、この町の魔法少女はキミで二人目だぽん」
「どういうこと?」
「この町は、なんだか嫌な魔力を感じるんだぽん……魔獣の数も明らかに多い。だから、迅速に対応できるようにこの町に住んでいる魔法少女は増やしておきたいんだぽん」
「ええ……てか、今の話だとわたしの負担多いんじゃないの?」
「そうだぽん?」
「ふざけんな?」
そろそろ殴っても許されるよね?
「大真面目だぽん。キミには素質があるぽんからね」
「またそれ……」
はあ、と深く溜息をつく。
「……で? わたしはこれから何するの?」
「お? やる気になったぽん?」
「なってないよ。でも、どうせ何かやらせるつもりなんでしょ」
テキトーに話を流して、早く帰ってもらいたくなっていた。
なんでもいいから、今日はもう休みたい。
「うん。とにかく、キミには魔王復活に備えて鍛えて欲しいんだぽん。そして、強い魔法少女になって欲しいぽん」
「レベル上げ、ってことね……」
「そうだぽん。そのために、まずはもうひとりの魔法少女に会いに行くぽん!」
「え? 普通にいやだけど」
即答。知らない人に会うの、いや。
「いいから行くぽん。わかったぽんね!」
ダメだ、このマスコット強引だ……わたしに受験勉強の時間を返してくれ。
「絶対いやだからね、わたし行かないか……ら」
そう言い終わる前に、モアは姿を消していた。
本当に勝手な話である。
このわたしが魔法少女……? 大きな魔力を秘めている?
何を言っているんだろう。
二度目の受験を間近に控えたこの冬。
いきなり現れた謎の生物「モア」のせいで、とんでもない話になってきた。
わたしはモアが散らかしたメロンパンの袋をゴミ箱に捨てると、ベッドに倒れこんだ。
あ……メイルたんの配信、アーカイブチェックしておかないと。
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