第3話 黒瀬麻子は塩対応
「……っっあー、助かったぽん! 生き返ったぽん!」
コンビニの袋から飛び出してきたそいつは、得体の知れない生き物だった。
白くて丸々としたフォルム。
猫のようにも鼠のようにも見える外見。
大きさは手のひらに収まるぐらい。
見た目はなんだか可愛らしい。
ぬいぐるみとしてなら。
だが、動いているとなると話は別だ。
というか、今……喋った?
「もう少しで飢え死にするところだったぽん。ありがとうだぽん!」
ぬいぐるみっぽい謎生物は、口の周りにメロンパンのカスをつけて流暢に喋っている。
どうやら、わたしの聞き間違いではなかったらしい。
と、いうことは。
「幻覚を見るようになったか……今日はもう寝よう」
そのまま毛布に潜り込む。
「ちょっと待つぽん! 幻覚じゃないぽん!」
後ろをぴょこぴょこ飛び跳ねる謎の生き物。
どうやら幻覚でもないらしい。
わたしは振り向きざまにぬいぐるみのようなボディを両手で掴んだ。
「幻覚じゃなかったとしたらあんたはパン泥棒だ……今すぐコンビニ行って、わたしのメロンパン買って来て!」
「え、えぇ……」
わたしの態度を見てドン引きする白いぬいぐるみ(のような生物)。
なんなのこの子。
「ぼくを見てその反応にもびっくりするぽんが……こんな子が魔法少女の適正を持っているということにびっくりだぽん」
「……へ?」
今、なんて言ったの?
魔法少女?
「ぼくの名前はモア。単刀直入に言うぽん」
モアと名乗ったその珍生物は、きりっとした可愛らしい目でこっちを見て言った。
「キミには、魔法少女の素質があるぽん!」
「……なるほど、夢ね」
再度毛布に潜り込もうとする。
「現実だぽん! いい加減その態度やめるぽん!」
うーん……頭が痛くなってきた。
いきなり現れて意味の分からないことを……
こういうの、アニメで見たことはあるけど。
現実でこんなことされても全く実感が湧かない。
というか、驚きすぎて反応してあげる気にもならない。
「……よしわかった。完璧に理解した。とりあえず、今日のところは帰ってくれる?」
今度は完全に毛布に潜り込む。
「いやいやいや! それは絶対理解していない子の反応だぽん!」
毛布の上からわたしの頭の上で飛び跳ねるモア。
やめてやめて! 痛いから!
毛布をずらしてちょっとだけ顔を覗かせると、モアはわたしの顔のすぐ前に来てこう言った。
「まずは説明させて欲しいぽん。この世界の危機について」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はあ……そうですか」
「そうですかじゃないぽん! 重大なことだぽん!」
漠然としたわたしの返事が気に入らなかったのか、声を荒げて再びわたしの頭の上で飛び跳ねるモア。
それやめて? わたしの頭が悪くなりそう。
モアの話を簡単にまとめると、モアの住む世界……わたしにとっては、『異世界』ということになるのだろうか。
そこでは『闇の魔王』とやらが復活しそうで、その軍勢が世界を侵略しようとしているらしい。
その魔王復活のエネルギーを集めるために、時々『魔獣』と呼ばれる生物がこちら側の世界に現れて、人間を襲っているのだと言う。
目的とか信念とか、小難しいことも色々言っていたが、聞く気もなかったので聞き流した。
ざっくり省略するとそういうことだ。
……うん、よくある設定だと思う。
「ふー……モア、だっけ?」
わたしはゆっくり起き上がり、ベッドの上で頭を掻きながら言った。
「モアみたいな謎生物といい闇の魔王といい、ほんとアニメの世界みたいな話だね」
「信じられないかもしれないけど、本当の話だぽん。現に、ぼくみたいな導者がここにいる。それが何よりの証拠だぽん」
「確かに、こんな変な生き物は見たことないけど」
「変!? 失礼な、大抵みんな『かわいいー』って反応してくれるんだけどぽん」
そうなの? 確かに見た目は可愛いんだけど……
こんな喋って動くぬいぐるみはちょっと嫌だなあ……
「とにかく、ぼくが言いたいのはキミに世界を救って欲しいということなんだぽん」
うん、まあそう来るとは思ったよ。
テンプレ中のテンプレだ。
大丈夫、こういうときなんて答えればいいのか、わたしは分かっている。
すっと右手を前に出して、落ち着いた声で言った。
「謹んで、お断りします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます