第7話 ようこそ 混沌の花園へ
扉には「文芸部」と油性ペンで記された紙が貼り付けてあるが、教室内に本棚はなく、大量のファイルや紙であふれかえっていた。多分資料室や体育倉庫よりも汚い。男子の学生寮みたいだ。部屋も旧校舎だからか薄暗い。
その不気味な空間には男子生徒と女子生徒が一人ずついる。
女子の方は何故か仁王立ちをしていて、小さい華奢な見た目でありながら、時折威圧感を感じさせる。
男子の方は顔立ちがよく、爽やかさを演出させる一方で、どこか寒気がする笑みを浮かべている。
俺の頭が三人から危険信号を受信している。
理解が追いつかない俺を他所に黒髪の彼女は唐突に自己紹介を始める。
「私は霧崎英梨。よろしく」
彼女は柔和な表情でプレッシャーを掛けるように言う。
一体何をよろしくすればいいのか。
霧崎はマイペースである。そうでなければ強引にここに連行したり、急に自己紹介を開始したりしないだろう。
そんな回想をしていると、仁王立ちの少女が話し始める。
「私は森下鈴よ」
案の定不機嫌そうに名乗った後、霧崎に悪態とため息をつき、俺へ「あんた、誰?」と言わんばかりに睨みを利かす。
威圧感だけであれば、武士(もののふ)の域に達しているだろう。
流れで俺が自己紹介をする。
「川上祐樹です。ところで、ここは何をする所ですか?」
首をかしげて尋ねると、森下と男子生徒はそれに答えるように同情と哀れみの視線を向ける。心無しか森下の態度が優しくなったような気がした。
アイコンタクトでコミュニケーションを取り合った後、男子生徒が思い直したようにさっきの催しを再開する。
「僕は竹内伸介と申します。以後お見知りおきを」
竹内は丁寧に挨拶と自己紹介を済ませる。その後、俺に微笑みかけてくる。
スラッとした顔立ちをしているのにその笑顔はどこか不気味さがあり、何か深い意味があるようでならない。
考えすぎかと思考をリセットし、再起動する。俺がリブートを試みていると、霧崎が大地を揺らすように一歩前に踏み込み、本題を切り出す。
「私たちの部活に入って」
その要求はいわば形式的な物で、実際は彼女の圧力が凄烈で脅迫になっていたという事実は否めない。
「俺に拒否権はあるか?」
そう俺は恐る恐る尋ねた。すると霧崎は渋々答える。
「無いとは言わない」
歯切れの悪い応答だった。どうやら彼女にはこれを俺がなぜ拒否するのか理解できないようである。
想像以上に彼女の我は強い。目力が強いのも相まってまるで狂戦士だ。
常に自分の正しさを疑わず、勝ちを確信している。理論ではなく思想が彼女を突き動かす。
「だが私はその選択が賢いとは思わない。孤独とはハイリターンだがハイリスクが伴う。それを踏まえて君は選ぼうとしたか?」
俺は彼女の正面で黙りこむ。彫刻になったように固まる。
「それにこれは単なる誘いや提案ではない。一種の契約だよ。君と私たちのね」
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