第5話 Boy meets unknown
いつものように図書館へ向かう。この静寂に包まれた空間は妙に落ち着くもので、教室の窓際とはまた違った心地よさがある。
図書館内をさまよい、誰もいない息を潜め、足音を消す。
ふと目に止まった本を手に取る。分厚い本はエンディングまで気力がもたない為、短編集を読むのがマイブームである。幸福な物語を黙読していると「自分もこうなれるのではないか」と錯覚してしまう。
黙々と本に没頭していると違和感を感じた。
この誰もいないはずの場所に先客がいたようである。本棚の路地をぬけると、目と鼻の先に女子生徒が座っていた。俺は物珍しさから彼女を眺める。漆黒の長髪を掻き分け、一点を見つめて読み耽っている。
*******
そこからどれ程時間が経っただろうか。いつしかその視線は辺りをさまよい、ある所へ辿り着く。気付いた時には、彼女はこちらをじっと睨んでいた。俺は斜め上に視線をそらした後、本を見つめるように目線を落とす。
そして、彼女は意外な反応を示した。秀麗と警戒で作られた結界が音を立てて割れる。笑みを浮かべているのだ。苦笑いでも愛想笑いでもない笑顔など何年ぶりに目にしただろうか。
存外柔らかい反応に驚愕する。予想外の表情に思考が止まる。俺はこの人間が一ミリも理解できなかった。ただ一つ分かったのは彼女が他の凡人とは明らかに違った存在であることのみだった。
俺は他者のことなど全くの無知だ。誰一人として記憶に残らないし、興味が無い。関わりが無かったという原因であっても後悔はない。
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