類友はカルマに従う 番外編2-⑥
「……」
リビングのソファーで眠っている羽琉を見るのは久しぶりだ。
ソファーの横の床に膝をついて羽琉の寝顔を見つめていたエクトルはふっと苦笑した。
フランスに来た当初、羽琉は残業をしていたエクトルをずっと待ってソファーで寝落ちしてしまったことが何回かあった。そんな時は仕事から帰ってきたエクトルが眠っている羽琉を抱きかかえ部屋のベッドに横にさせていた。その翌日、すごく恐縮した羽琉に何度も謝られたことは言うまでもない。
もちろん起きて待っていたことの方が多かった。深夜の帰宅になっても、疲れて帰ってきたエクトルに、眠そうに目を擦りつつ「お帰りなさい」と出迎えてくれる羽琉はギュッと強く抱き締めたくなるほど可愛かった。
だが眠いのを我慢して待っててくれていることに、嬉しさ半分、申し訳なさ半分で、結局羽琉を気遣ったエクトルが「待たずに寝ていて下さい」と伝えたことでその後夜遅くまで待つことはなくなった。
羽琉としては疲れているエクトルに寝落ちした自分をベッドまで運ばせることが心苦しく、エクトルの言葉に甘えることにしたというのが真相なのだが、それが分かっていてもエクトルは少し寂しく思っていた。
そんなことを思い出しつつ眠っている羽琉の髪にそっと触れると、ふいに羽琉の目が薄く開いた。
「…………」
まだ夢現な様子の羽琉に「ただいまです。ハル」と微笑んで言うと、羽琉の目がパッと大きく開いた。
「あ、あれ。エクトルさん」
「はい。珍しいですね。ハルがここで眠っているなんて」
「……そう、ですね。ちょっと横になったら眠っていました」
起き上がる羽琉に手を貸しつつ、ちらりと横目でテーブルを見たエクトルは眉根を顰めた。
「デジュネ(昼食)を摂っていないのですか?」
「あ……」
気まずそうに言葉を濁す羽琉に、エクトルは心配気な視線を送る。
「どこか具合でも悪いのですか?」
「い、いえ。そんなことはありません。ただ……今日は少し食欲がなくて。勿体ないので夕食で食べます」
慌てて否定する羽琉の頬をエクトルの手がそっと撫でる。そして熱はなさそうだと分かると少し安堵の表情を浮かべた。
「無理することはありません。体調が悪いのならば遠慮なく横になっていて下さい」
「いえ、大丈夫です。それより今日は何か用事があったのでは?」
「えぇ、ですが……」
心配顔で気遣うエクトルに、「本当に大丈夫ですよ」と羽琉はにこっと微笑む。
「ディネ(夕食)は食べられそうですか?」
「はい。昼食をあまり摂っていないのでお腹がペコペコです」
羽琉の笑顔に、エクトルも合わせて「それは良かったです」と微笑む。
「ですが、ハルのデジュネは私のペティ・スーペ(夜食)にさせてもらいます」
「……え?」
小首を傾げる羽琉に笑みを深めたエクトルは「私がいいと言うまで少し目を瞑っていて下さい」と言うと、羽琉が不思議そうにしつつも目を瞑ったのを確認してから、そっとその場を離れた。
しばらくして羽琉の耳にカチャカチャと小さな金属音と何かか擦れる音が聞こえる。そしてふいに漂ってくる匂いに、エクトルが夕食を持ってきてくれたのだと悟った。
「……エクトルさん?」
目を瞑りながら問うように声を掛けると、「まだ駄目ですよ」と制止の言葉が投げられる。
諦めた羽琉は目を瞑ったまま、エクトルの「よし」を待つことにした。
それから準備が整ったのか、エクトルから「もういいですよ」という返事があり、羽琉はゆっくりと目を開けた。
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