類友はカルマに従う 番外編2-④

 もう少し早く贈り物を決めていれば、こんなことにならなかった。

 そんな後悔を抱きつつ、エクトルは仕事帰りに電話で注文していた品を取りに行っていた。

 かなり無茶な注文をしたことは分かっているが、どうしてもデザインにこだわりたかった。愛しい恋人に贈る物なのだから、手は抜きたくないし妥協もしたくない。だがショップの前に着いたエクトルは、ここにきてまだ悩んでいた。

 フランクが言っていたように、羽琉ならどんな物でも喜んでくれるとエクトルも思っている。高価な物や派手な物が好きではないことも知っている。質素な物でも気持ちがこもっていれば、羽琉は嬉しそうに笑ってくれるだろうことも高い確率で予測できる。

 それでも、もっと、と欲張ってしまうのは贅沢なのだろうか。

「……自分がこんなに誰かの喜ぶ顔を求めるなんて知らなかった」

 羽琉相手にだけ感じるこの欲求を、エクトルはまだ満たすことができずにいた。

 そして予約していた時間になり、エクトルはショップのドアを開ける。店に入ってきたエクトルに女性店員は「いらっしゃいませ」と声を掛け近寄ってきた。

「注文していた品を受け取りに来たんだが……」

「! ダンヴィエール様ですね。少々お待ち下さい」

 そう言って女性店員は店の奥へと入っていった。

 しばらくして出てきたのは、作業服を着た中年の男性だ。

 「お久しぶりですね。エクトル様」とにこやかな表情で話し掛けてきたのは店主のフレデリックだった。

 「急な注文をしてすまない」

 申し訳さな気に謝るエクトルに、フレデリックは「全くです」と苦笑交じりで答える。

「お気に召すデザインになっているか、ご確認頂けますか?」

 エクトルと旧知の中であるフレデリックは、白手袋をつけるとトレイの上に一つのブレスレット乗せてエクトルの前に見せた。

 それを手に取ったエクトルは角度を変えながら、じっくりと見やる。細部にまで細かい細工が施されたデザインは、エクトルがイメージし注文した通りに仕上がっていた。

 エクトルはニッと笑うと、「……パルフェ(完璧)」と満足そうにフレデリックに言った。

「良かったです。気合を入れて作り上げた甲斐がありました」

 フレデリックも安心したような笑顔を浮かべる。

「喜んでくれそうだ……」

 手渡した時の羽琉の表情を想像して、エクトルは目を細めた。

 穏やかなエクトルの様子に「大切な方なのですね」とフレデリックが言うと、エクトルはさらに笑みを深める。

「そう。一番大切な相手なんだ。だからフレックにお願いした」

「それは光栄です」

「すごく満足のいく出来で驚いたよ。愛しい恋人のために素敵なラッピングを頼むよ」

 楽しそうに笑ったフレデリックは「はい」と言って奥部屋へと歩いて行った。

 社交辞令ではなく、エクトルは本当にそう思っていた。

 ブレスレットの完成度は高く、羽琉のイメージに合っている。羽琉が身に着けてくれると嬉しいが、まずはこれを受け取った時の羽琉の笑顔が見たい。

 一緒に生活していても羽琉は何も望まないため、エクトルは貢ぎたくても貢げない。何でも羽琉に与えたいと思っている欲求も満たされていなかった。

 それでも今回は無条件で羽琉に与えることができる。だからこそ今日という日はエクトルにとって一番大事な日なのだ。

 羽琉が喜んでくれるようにと願いながら、フレデリックが包んでくれた羽琉への贈り物を大事に受け取りエクトルは店を後にした。

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