類友はカルマに従う 番外編2-③

 正午過ぎ。

 エクトル宅には、ハウスキーパーであるサラがキッチンに立っていた。

 食事を作るサラの後ろ姿を見ていて、本当は何か手伝いたかった羽琉だが、フランス語の会話がまだ完璧にできない羽琉は声を掛けることに躊躇いを感じていた。それに元々人付き合いが苦手な羽琉は、未だに自分からサラに声を掛けることすらできずにいる。出迎えた時に挨拶を交わす程度の会話しかしていない。

「……」

 羽琉は居心地の悪さに溜息を吐いた。

 普段はサラが来る時間帯に邪魔にならないよう外出しているのだが、今日はエクトルが家で待っていろと言われたため外出することもできない。

 結局、サラに何も言えないまま、羽琉は自室に閉じ籠るしかなかった。

 フランス語の習得のためワイヤレスイヤホンを付け、テレビとパソコンの画面を交互に見やる。そして口に出しながら発音の練習をする。分からないところはパソコンですぐに調べる。

 一時間ほど集中していると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ビクッと肩を揺らしたが『ハルさん』というサラの声が聞こえ、すぐドアを開ける。

『昼食はテーブルに用意してます。夕食はいつものように冷蔵庫に入れてありますので、エクトルさんと一緒に食べて下さい』

 フランス語でゆっくり話してくれるサラに感謝しつつ、単語を繋ぎ合わせて何とか文章を理解できた羽琉は「メルスィー・ミル・フォア」と頭を下げ礼を言った。

 サラはにっこりと微笑むと『どういたしまして』と返す。そして仕事を終えたサラは『さようなら』と言って、羽琉に手を振り自宅へを帰っていった。

「……」

 羽琉は長嘆を洩らす。

 羽琉の人見知りはまだまだ治る気配がない。

 サラのように優しい人とも親しくなりたいのだが、言葉の壁と自身の性格の問題のせいで、なかなか一歩を踏み出すことができなかった。

 羽琉は机に突っ伏した。

 相変わらずの不甲斐なさに自己嫌悪に陥る。

 焦る必要はないとエクトルもフランクも友莉も言ってくれる。自分のペースでゆっくりと慣れなさいと。

 でも羽琉がそれに甘えてはいけないような気がした。

 少しでも早くフランス語を話せるようになりたい。フランスの地に慣れたい。エクトルの支えになれるようになりたい。友莉のもとで働かせてもらえるようになりたい。そう思えば思うほど焦ってしまう。

「……駄目だ。しっかりしなきゃ、エクトルさんに見抜かれちゃう」

 頭を振って思考を切り替えると、羽琉は再びフランス語の勉強を始めた。

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