類友はカルマに従う 番外編1-③

 ガチャ。

 その時、玄関のドアが開いた音が響いた。

 反射的に玄関へと走り出した羽琉は、フランクに肩を貸してもらい並んで帰ってきたエクトルに心配げな表情を向ける。

 「ただいまです。ハル」と笑顔を見せるエクトルだったが、その表情はどこか辛さが滲んでいた。

「ただいまになってません」

 肩を貸しているフランクが呆れた眼差しをエクトルに投げる。

「とにかく横になりましょう」

 そう言ってエクトルを半ば引き摺るようにして、フランクはエクトルの部屋に真っ直ぐ向かった。

 フランクと羽琉のお陰でさっさと着替えを終えたエクトルは、すぐさまベッドに横になる。

「すみません、ハル。心配を掛けてしまいましたね」

 横になりつつ力なく笑うエクトルを見つめつつ、羽琉は辛そうに眉根を寄せた。

「で? 原因はなぁに?」

 料理を作り終えた友莉がエクトルの部屋に来ると呆れた調子で訊ねてきた。

「過労」

「……過労、ね」

 フランクの答えにやはり呆れた友莉は溜息を零す。

「すみません。僕が気付いていれば……」

 俯いた羽琉が後悔に泣きそうになっていると、「自業自得です」とフランクの呆れた言葉が届いた。

「確かにこれまで仕事のペース配分を間違えたことはありませんでしたが、倒れたことは明らかに本人のスケジュール管理の問題です」

 耳の痛い苦言が呈される前に、エクトルは深い眠りに就くことにした。

 羽琉が小首を傾げて「スケジュール?」と訊ねる。

「エクトルは今、複数の案件を同時進行させています。それは今に限ったことではないですが、だからといってこんなになるまで詰めて仕事をすることは今までになかった」

「なるほど。羽琉くんとの時間を作るために、自ら働き詰めにしたのね」

 理解した友莉がフランクの言葉に続いた。

 逆に申し訳なさが募った羽琉は、どうすればいいのかとおろおろしてしまう。

 そんな羽琉の様子に「……添い寝でもして差し上げては?」とフランクが飄々と言ってのけた。

「フランク」

「冗談です」

 友莉に窘められ、「すみません」とすぐに謝り羽琉に頭を下げるフランク。

「エクトルは眠ったみたいね」

 話を変えるように寝息をたてて寝ているエクトルをジッと見つめた友莉は、やれやれといった溜息を吐き、羽琉の方に向き直る。

「取り敢えずこのまま寝かせてあげて。キッチンにコキエットのパスタとピュレを作っておいたわ。それからリンゴのコンポートと果物も買っておいたから、エクトルが欲しがったら食べさせてあげてね」

「何から何まで……ありがとうございます」

「私としては貴重なエクトルの姿が見られたから大満足よ」

 そう言って友莉は弱みを握ったような笑みを見せる。

「じゃあ私たちは帰るけど、何か困ったことがあったら迷わずすぐ連絡してね」

「はい。ありがとうございます」

 羽琉はフランクと友莉に深々と頭を下げ、玄関まで見送った。

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