第十二話 抗えぬ運命

 キーン コーン カーン コーン


 およそ1ヶ月ぶりの学校で、久しぶりにクラスメイトに会い、夏休み中の話などをして盛り上がっている教室に鳴るチャイムの音。


 みんなが席を立って、おしゃべりに夢中になっている中、1人だけ席に座って隣の席を見つめているアスカは、少し異質だった。アスカは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


 そのことに気づいたエマが声をかける。


「アスカー?なんかあった?」


「え?・・・いや、なんでもないよっ!」


 無理矢理作った笑顔が、なんだか悲しかった。


「あれ?エマの隣の席って誰かいたっけ?」


「ぇ・・・」


 アスカの声は、教室に満ちているしゃべり声に掻き消されて、エマには聞こえなかったようだ。



 ちょうどその時、教室に先生が入ってきた。


「はい!席につけー」


 その声で、しゃべり声は消えて各々が席につくために椅子を引く音が響く。


「今日から、2学期です!夏休み中にみんなはなにをしたか?先生は、キャンプに行ってきました!初めて行ったんですよー」


 割とどうでもいい、先生のキャンプ初体験の話。アスカは、上の空で聞いていた。


「あ!そうだそうだ。今日からこのクラスに転校生を迎えることになったんですよ。廊下に待たせてるので、呼んできますねー」


 『転校生』というワードに反応し、教室がざわつき始める。


 先生は、廊下に行き、すぐに戻ってきた。その後ろについてくる男子生徒が1人。


 その男子生徒は、健康そうな細い体型、短い頭髪、フレームの薄いメガネをしていた。


「えっ!意外とイケメンじゃない?」


「ちぇっ、男子かよー」


 男子と女子でそれぞれ、言っていることは違うが、教室には声が響き渡っている。


 それを止めたのは、先生の声だった。


「はいはい。転校生に夢中になるのはいいけど、ホームルーム中だから、静かにしてー」


 その声だけで、教室が静まる。


「じゃあ、自己紹介してもらおうか」


 そう言って、先生は転校生に合図を送る。転校生は、その合図で口を開いた。


「初めまして・・・カイトです」


 簡潔に自己紹介を済ませ、先生に戻す。


「はーい、カイト君です。みんな仲良くするように。座席はー、1番後ろの空いてる席に座ってくれ。アスカ、よろしく頼むぞ」


 突然呼ばれたアスカは、ハッと顔を上げる。そして転校生、カイトを初めて見た。


 だんだんとアスカの顔か、恐怖に染まっていく。


「よろしく・・・・・アスカ・・・」

















 いつの間にか、黒板には『ツギハオマエダ』の字が刻まれていた。

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RePeaT ダリア @dahlia_3710

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