第十一話 憎悪

「忘れた事がないねぇ。よく言うよ!」


 カイトは黒い靄を身体から出した。いや、出したのではない。元から出ていたのを、トウヤに見えるようにしたのだ。


 黒い靄は、アスカたちの身体を包んでいた。だから、身体が動かないのだ。


「寂しかったんだよ・・・だって、トウヤくん、見捨てて行っちゃうんだもん」


 カイトが、トウヤの目を見て言う。当のトウヤは、首を振っている。


「・・・違う、違うんだ!あの時、俺は、見捨ててなんかない!カイトを見捨てるわけないだろう!信じてくれよ!」


 一息で言い切り、身体を震わせている。その頰には、涙も流れている。それは怒りからか、悲しみからか、もう一度会えた喜びからか。


「転校しても無駄だよ。どこまでも追いかけるからね・・・」


 途端、黒い靄がカイトの脚に絡みつく。トウヤは、身動きが取れなくなる。


「ほぉら!もう、逃げられない」


 そのおかげか、アスカたちの身体を包んでいた黒い靄は無くなっていた。


「開いた!みんな、こっち!!!」


 タケルが声を上げる。ずっと、ドアの前にいて動けるかどうか試していたからこそ、1番に気付けたのだろう。


 タケルの声を機に、マコト、エマはドアのほうに逃げていく。しっかりと手を繋いでいるというオマケつきだ。


「カイト、アスカ、はやく!」


 マコトが呼びかけるも、トウヤは反応がない。アスカはトウヤを助けようとしているが、黒い靄に阻まれてうまく動かずにいる。アスカには、見えていないが。


「トウヤ!トウヤ!!」


 アスカが、呼び掛けても反応がない。トウヤは、ただ呆然とカイトを見つめているだけであった。


 その場にいるだけで冷や汗学校止まらず、恐怖に支配されそうになる空間に耐えられなくなったアスカは、


「トウヤ・・・・・ごめん」


 ついに、教室を出て行ってしまった。


ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ


 足を踏み出すたびに鳴る、床が軋む音がだんだんと遠ざかっていく。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




・・・・・・・

・・・・・

・・・



 教室には、カイトとトウヤしかいない。


 ドアのほうを見ていたカイトが、トウヤのほうを身体ごと振り返った。


「やめてくれ!やめてくれ!・・・・・すまなかった。カイト、あの時は悪かった。お願いだ!許してくれ!」


 トウヤが、ついには命乞いをし始めた。その様子をカイトは、冷めた目で見つめる。まるで、もう興味が無くなったかのように・・・


 そして、一言。


「結局そうなるんだ・・・」


 風がヒュッと短く吹いたあと、それまで命乞いをしていたトウヤの声が聞こえなくなった。


 音の無くなった教室で、カイトは呟く。


「あーぁ、君らも逃げちゃうのか」


 その唇は、三日月のように吊り上がっていた。

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