第十話 友情の末路

 静寂・・・それは、短い時間だったが、2人にとっては、とても長く感じられた。


「誰だ?」

 カイトの声がポツリと溢れる。


「ちょ、お前どこから現れたんだよ!」


 トウヤが声を荒げ、問いかけるが、返事はない。相変わらず、強い風が吹いているだけだ。


 そう、風が吹いているだけだ・・・


 『ソレ』は、一歩踏み出した。それに呼応するようにトウヤたちも一歩退がる。


 一歩。また、一歩。だんだんと近づいてくる。


「どうすんだよ?トウヤ」

  『ソレ』を視界に捉えたまま、カイトが言う。


「とりあえず、逃げよう!」


 トウヤが叫んだ瞬間に走りだした。置いてかれないように、カイトも走りだした。


 『ソレ』は、走りだした2人を見つめていた。そして風が強く吹いた。


 ホールには、もう誰もいなかった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ はぁ はぁ はぁ」


 2人分の激しい息遣いと大きな足音。


 2人は中庭を超えて、長い廊下にまで来ていた。


「巻いたか?・・・ふぅ」


「早く出よう!こんなところにもう、いたくない」


 コソコソと話をしている。『ソレ』に聞こえないようにするためだろうか。


「たしか、出口はこの階段を降りて右側だよな?」


「あぁ、そうだな」


 足音を立てないように慎重に、それでいて早歩きで歩き出した、2人。しかし、何かを感じたのか、2人ともぎこちなく後ろを振り返った。後ろには・・・


 『ソレ』がいた。


「うわぁぁあああ!」


 叫び声と共に、走りだした。


 ところが、トウヤは絨毯につまづいて転んでしまった。止まって助けに向かおうとした、カイトは、全身が震え、身体が硬直してしまっている。


 後ろからじわじわと『ソレ』が迫ってくる。


 声を出すこともできないのか、口を大きく開けたまま、『ソレ』を見つめているカイト。


 『ソレ』は、その身体である、黒い靄をトウヤに纏わりつけていく。


 カイトは、呆然と見つめることしかできない。


 その間、トウヤの目は、カイトの目を射抜いていた。まるで、早く助けてくれと言っているようだった。


 しかし、カイトは動けない。そして、トウヤの身体が完全に黒い靄に包まれてしまった。


 強い冷たい風がビュゥッと吹いた後、カイトは、身体の硬直が解けたのか、無我夢中になって外に向かって逃げ出した。


「俺が誘ったせいだ!ごめん。ごめん、トウヤ・・・」


 いつの間にか、トウヤもおらず、そこにはただ静かな夜があるだけだった。






















床に文字が刻まれている。


   『ユルサナイ ニゲラレルトオモウナ』

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