第六話 動きだす運命

 〜〜一階〜〜


 しばらく、一部屋ずつ確認していた2人だったが一階には何も異常はなく、体育館だった建物に行ってみることになった。


 体育館はとても広く、バスケットのゴールやステージもあり、校舎に比べると、まだ状態は幾分か良かった。


「2人きりだね・・・」

「あぁ、そうだな」

  微妙な沈黙が広がる。先に沈黙を破ったのはエマだった。


「実は、ずっとマコト君のことが好きなんだ!」

  まさかの告白に理解が追いついていないのか、黙ったままの様子のマコトを見たエマは自嘲の笑みを浮かべた。


「やっぱり、ダメだよね・・・」

 (どうしよう、すごく気まずい。失敗したなぁ。)


「じ、実は俺も!エマのことが好きだったんだ!」


 エマの言葉に我に返ったのか、マコトは早口で捲し立てた。今度はエマが硬直する番だった。


「ほ、ほんと?」


「あぁ、ホントだ!入学式で初めて出会った時に一目惚れした!それで、今まで、ずっと機会を伺ってた。2人きりになれる瞬間を!」

  マコトによるまさかの告白に理解が追いついていないエマは、ただ呆然としていた。


「俺と付き合ってください!」

  渾身の告白にやっと我に帰ったエマは涙を流し始めた。そして、嗚咽まじりに返事をする。


「は、い!」


 2人ともクシャクシャの笑みで抱き合った。そして、見つめ合った2人はゆっくりと顔を近づけていく。唇が触れる、その瞬間、


 ボーン ボーン ボーン


 体育館には不釣り合いの大きな振り子時計が鳴った。時刻は9時。


 2人は、パッと離れて恥ずかしそうにしている。また、微妙な沈黙が広かった。先に沈黙を破ったのはまたしても、エマだった。


「まさか、時計に邪魔されるとはね。思ってもなかったな」


 そう言い、振り子時計に近づいていくエマ。そして、無言のまま、振り子時計に手を伸ばした。もう少しで、振り子時計の羅針盤に触れるというところで、マコトがエマの腕を掴んだ。


「エマっ!大丈夫か?」


「え?大丈夫って?」


「俺が呼んでたの聞こえてたか?」


(何度も呼んだのに、返事をせずに時計に夢中になってた。この時計は、絶対に何かある!)


「あれ?私何してた?マコト君にこ、告白して、告白してもらって、ハグして、キ、キ、キスしようとして、時計に邪魔されて・・・」


 若干詰まりながら、状況を整理するエマ。しかし、そのあとのことはどうしても思い出せないようだ。


「タケルたちと合流しようか」


「う、うん」


 この時計から離れたほうがいいと考えたマコトは、体育館から出て、3人と合流することに決めた。


 エマを介抱しながら、体育館を出て行くマコト。最後にチラリと振り子時計を見たが、何もおかしな所はなかった。


 もし、エマがあの振り子時計に触れていたらどうなっていたのだろうか・・・

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