第3話
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半透明だ。
半透明な女が宙に浮いてる。
時々、宇都宮が着てるフリフリの付いたワンピースみたいな何かを着た女が、フワフワの長い髪をなびかせながら、地上三メートル辺りの中空を泳ぐようにフヨフヨと漂ってるのだ。
しかも、半透明に透けて、背後にそびえる大木が女を通して見えてやがる。
「ひゃぁぁぁあっっ~っ」
腰を抜かしたオレは悲鳴を上げながら、這うようにレッドの後ろに回った。
「どうしたんだアル」
「オレ、まじでダメなんだよ」
「ダメってなにが?」
「幽霊とか、心霊とか、そっち系のやつが全般的にさ~」
お化け屋敷も、きもだめしも全部ダメ。
作り物だって分かってても、恐いモノは、恐いんだよ。
それも、これも全部宇都宮のせいだ。
まったく、あいつは何だってあんな真似を⋯⋯。
「この人、大丈夫なのレッド?」
って、こっち来んな!!
「大丈夫だよフランチェスカ。初めてアンタに会ったから、ちょっとビックリしてるだけさ」
だいじょばない!!
一ミリだって、大丈夫じゃない。
ビックリどころか本気で脅えてる。
なんなんだよ、こいつ。
こんなのが居るって聞いてないぞ。
って、フランチェスカ!?
「名前があんのか!?」
レッドと話してたフランチェスカが、オレに向かってズイっと顔を突き出した。
ヒィィィィィ⋯⋯。
「当たり前じゃない。あたいを何だと思ってんの」
なんなのって、
「幽霊だろう」
「ご名答~⋯⋯」
と、言った瞬間、フランチェスカの顔がドロリと融けて、
「ヒャァァァァァ」
オレは悲鳴を上げて転がり回り、その場を這って距離を取った。
もう、もう、もう!!
こんな所にいられない。
もう、逃げる。
帰る。
こんな所っ⋯⋯、て。
笑ってやがる。
レッドとフランチェスカが腹を抱えて。
人が本気で怖がってんのに、なんてヤツらだ、すんげえムカつくんですけど。
「なんだよ」
「いや、ごめん。なんか本気で怖がってるし」
「怖いに決まってるだろ」
「あ~、うれしい」
フランチェスカは両手でガッツポーズを取りながら、オレの頭上を飛び回った。
「侵入者の連中も、これぐらい本気で怖がってくれたら楽なのにね~」
侵入者の連中。
怖がる。
え~っと、つまりこいつも仲間なのか?
「おいフランチェスカ」
「あによ」
「お前もダンジョンキーパーなのか?」
「そうよ。決まってんじゃん」
決まってんじゃんって、知るかよそんなこと。
まず落ち着けオレ。
深呼吸だ、深呼吸。
深く息を吸って、身体中に溜まった
よし、頭がスッキリしたぞ。
フランチェスカがダンジョンキーパーって事はだ。
つまりコイツは、VR映像の遠隔操作ってやつに違いない。
どこにスピーカーがあるのかは分からないが、スゴく自然な喋り声に聞こえるな。
で、ここからが本題。
オレのこの薄っぺらなサメのマスクのどこに、モニターが仕込まれてるのか知らないが、これを脱いでしまえばフランチェスカは消えてしまうって事だよな。
何てったってVRだし。
「ふふふふ」
「どうしたのよ」
「お前を消してやるぞフランチェスカ」
「え!?」
「アル、ちょっと待て!!」
「くらえ」
オレは思い切ってマスクを脱いだ。
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「アル、なにやってんの?」
瞼を閉じたオレにレッドが声を掛けた。
ふふふふ、これでもうフランチェスカに脅えることはない。
そっと目を開けたオレの目の前に、半透明なフランチェスカの顔がどアップで映った。
「なんでいんだよ!!」
「顔が変わった!!」
ギューンッと真後ろに飛んだフランチェスカが、口元に握り拳をやって脅えた表情でオレを見た。
「顔が変わったわ。ねえレッド。あいつ顔が変わったわよ」
「あいつたぁなんだ、初対面の人間に向かって」
「知ったことじゃないわよ、この変人」
「変人だと、このヤロウ」
「アルはスキンチェンジャーなんだよ。フランチェスカ」
「へ!? スキンチェンジャー!?」
オレとの言い争いで肩で息をしてるフランチェスカが、ギョッとした眼でオレを見た。
器用だなフランチェスカ。
どんなプログラムで動いてんだ?
って、こいつVR映像じゃないのかよ。
だったらなんだ!?
立体映像か。
こんなに鮮明に見えるのものなのか。
って、周りの石造りの家もVRじゃねえ。
なんだこれ。
VR映像でも、書き割りでもない。
本物だ!!
本物の石だぞ。
これ全部で何トンあんだよ。
ビルの床保つのかよ?
どんだけ金掛けてんだよ、このリアルRPG。
とんでもねえな。
マスクを被り直しながら、オレは思った。
一回のプレイ料金幾らするんだ?
給料入ったらプレイヤー側で遊んでみようと思ってたけど、この設備を維持するのに、どれだけ金が必要になるのか?
それを考えるとワンプレイ一万とか二万じゃ済まない気がする。
とんでもない金持ちの道楽だよ~。
そういやプレイヤー側の装備も豪華だしな。
アイツら、どーみても本物としか思えないような剣や槍を持って来るし、鎧とかもスンゴイ彫刻の入った、本物の鋼の鎧を着込んでて──
「ちょっと!! 人が話しかけてるのに、なに考え込んでんのよ」
見上げるとフランチェスカが腕を組んで仁王立ちしてた。
立体映像だってのに、スカートの中身までしっかり作り込まれてやがる。
お~、パンツだ。
パンツ履いてるよ、立体映像なのに。
「ちょっと、聞いてるの」
「聞いてる、聞いてる」
しまパンだよ。
しまパン。
どっかのアニメキャラかフランチェスカ。
♠
第四話へつづく。
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