第二章 廃墟の街にて
第1話
おー、
お~、
おぉぉぉぉぉ⋯⋯。
凄えな、ここも。
オレは圧倒され息を飲んだ。
本当に雑居ビルの中なのかこれ?
複雑に入り組んだ狭い路地に、屋根を突き破って
そして経年劣化で、途中でへし折れた巨大石柱と。
廃墟の街だよ、廃墟の街!!
でも、地下都市って訳じゃない。
何故なら、ここには太陽と、雲と、地平線の彼方まで続く青い空があるからだ。
前回の現場は、全部森のなかだった。
それもレンガ造りのドーム天井のある森の中だ。
今回のダンジョンは屋外だよ、屋外。
外でダンジョンって言うのかは謎だけど、ダンジョンキーパーの仕事で来てるんだからダンジョンなんだろう。
「街中でやるのか?」
「街じゃない。ここに人は住んではいないからな」
なるほど、つまり完璧な廃墟って訳だ。
廃墟の街を巡る攻防か~。
う~ん、燃えるねえ。
なんか重要なクエストっぽい。
「こっちだアル」
レッドにうながされたオレは、他の建物より頭一つ高い、石造りの神殿のような場所に立った。
お~、絶景だ。
ここからだと光と陰に彩られた複雑な街並みが
広いぞ、ここ。
ぱっと見だけど、相当な広さと奥行きを感じられる。
某夢の国よりも広いんじゃないだろうか。
向こう側がキラキラ光って見えるのは、映像処理が間に合ってないからだろうか?
それにしてもVRって凄えな。
閉じた途端にドアは消えるし、地平線の彼方まで続く街に、燦々と輝く太陽まで作れるんだから。
「それで。侵入者はどこから来るんだ」
出来たら、こんなのどかな場所で戦いたくないな。
むつみちゃんでも連れてピクニックで来たい場所だ。
んっ!?
むつみちゃんって誰だって?
むつみちゃんは宇都宮の妹だよ。
「ここには来ない」
「はぁ?」
「今日、ここでおれたちがやる事はこれだ」
と、言ってレッドが渡して来たものがあった。
「ほうき?」
「そう、ほうき」
「ほうきで何をやる?」
「なにをやるって掃除だよ、掃除」
そう言ったレッドが、そこら辺に落ちてる枯れ葉や埃を掃き清め出した。
「ほら、なにをやってるアル」
「え、いや、まあ」
仕方ないのでオレも
なにやってんだろオレ。
サメのマスクかぶって、RPGに出て来る山賊みたいな格好して、謎の古代遺跡までやって来て庭掃除!?
「なあ」
「なんだ」
「本当に掃除だけなのか?」
「掃除だけだ」
「こんな事、オレ達のやるべきことなのか?」
「当たり前だろう」
「当たり前って」
「オマエは本当に何も知らないな」
今日はターバンじゃなく、鍔の広いボロっちい帽子を斜めにかぶったレッドが、呆れたようにオレを見た。
「ダンジョンを生活の糧にしてるおれたちが、ダンジョンを
いや言ってる事は分かるよ。
でも、普通、そーゆーのは専門の清掃業者に
ここの職員の人は、本当に愛社精神にあふれてるというか、なんというか。
レッドにならって黙々と掃除をしてる内に気づいた事がある。
ここ想像以上に広い。
しかも、想像してたよりも遥かに入り組んでる。
右に曲がったかと思うと、今度は左に曲がり、気が付いたら全く見当違いの場所に出てたりする。
ちょっとした迷路になってる上に、道幅が狭いもんだから、左右から押し寄せてくる石造りの建物の圧迫感が凄いこと。
どれもこれも似たような建物で、特に目立った目印もないから、同じ所をグルグルと何度も歩いてるような錯覚に陥るのだ。
これが何とも言えず恐い。
静かな不安感に押し包まれるというか、なんというか。
なるほどな~。
ダンジョンに迷い込むって、こーゆー事なのか。
レッドが側にいてくれて良かった、一人だと確実に逃げ出してたと思う。
「アルこっちだ」
山のように積もった枯れ葉を掃きながら進んで行くと、一気に開けた場所に出た。
広い。
ちょっとした公園ぐらいの広さがる。
広場の中心に枯れた噴水が見えるから、本当に元は公園だったのかも知れない。
なんだか少し寂しい場所だ。
「よし、じゃあ燃やすとするか」
「燃やす?」
「そう燃やす」
「この枯れ葉をか!?」
「なにか問題があるか?」
いや問題大ありだろう。
商業施設のなかで火を燃やすとかどうかしてるぞ。
って、
「なにしてる?」
腰に差した短剣を抜いたレッドに訊いた。
「火を着けるのさ」
と、短剣の背を長細い棒に擦り付けた。
途端。
物凄い火花が散って、カラッカラに乾いた枯れ葉から細い白煙が登った。
オイオイオイ!!
火を着けちゃったよ、コイツ!!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイって!!
警報が鳴って、スプリンクラーが作動するぞ。
ほら、いますぐにでも。
さん、
にい、
いち!!
無音。
パチパチと小枝の
え~っと、管理会社大丈夫なのか、これ!?
♠
その2へつづく。
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