第4話
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「
なんだか感心したような口振りでターバンが指差した先で、砂の城が波に浚われて崩れて行くように、ゴーレムが足元から音を立てて元のつちくれに戻っていた。
「無茶な真似をしやがる」
差し出された手を握り替えしながらオレは言った。
「そうでもねえよ」
「死ぬ所だぞ?」
「死にゃしねえよ、この程度の事で」
ターバンにそう返しつつ、オレは半分に折れたナイフを金髪貧乳の喉元に突きつけた。
「お前等の負けだ」
月並みなセリフだけど、ナイフを向ける事で悪役っぽさが強調されていい感じだ。
我ながら良い仕事してる。
「くっ⋯⋯、好きにしろ」
好きにしろって言われてもな~。
エロいマンガに登場するエッチいオークじゃあるまいし、なにをどう好きにするってんだ?
「おら、とっととコイツ等を連れて出てけよ」
意識を取り戻した鎧騎士とパチモンガンダルフを指さして、オレは憎々しげに言った。
う~ん、いよいよ悪役っぽい。
「覚えてろ。いつか必ず殺してやるからな」
なりきってんね~。
いいぞ、いいぞ、なんか楽しくなって来た。
「負け犬の遠吠えってやつだな。尻尾を巻いて失せるがいい」
五人組の姿が見えなくなるまで、オレは笑い続けた。
あ~、気持ちがいい。
「オマエ、なに考えてる」
オレの後ろで腕を組んでつっ立ってるターバンが呆れたように肩を竦めた。
えっ!?
なんかマズったか、
ボーナスポイントでも取り損ねた。
も~、面接官のお姉さん、もっときちんとレクチャーしてよ。
「まあ良いか。おれはレッド」
そう言ってターバンが改めて手を差し出した。
「オレは、新入りのアルバイト―― で」
って、なんだ。
レッドと名乗った男が怪訝な眼をオレに向けてる。
「こんな場所で
「ん? なにが」
ターバンを解く手を止めて、レッドが困ったように首を振った。
「オマエもダンジョンキーパーなら。もっと用心しろよ」
ダンジョンキーパー!?
真名!?
知らない単語が続いて出た。
ダンジョンキーパーってのは、多分この仕事の事だよな。
ダンジョンキーパーね。
ダンジョン。
ダンジョン。
そーだよダンジョン!!
屋根のある地下空間に広がる森。
まさしくダンジョン!!
そうか。
そーか、そーか。
オレはダンジョンの魔物なのか。
なんだよ。
速く言ってくれよ。
それなら、もっとそれらしく振る舞ったのに。
「どうした?」
オレの様子を眺めてたレッドが不審そうな眼を向けてる。
「いや、なに、ちょっとした謎が解けただけ⋯⋯、だ」
ターバンを解き、気持ちよさそうにて頭を振ったレッドを見て、オレは思わず言葉を切った。
灰色の長い髪、先端の尖った長い耳、それに真っ赤な瞳と、中性的な美貌。
こいつ、あれだ。
エルフだ。
肌の色が
RPGの悪役の大本命じゃない。
「なんだ!?」
「いや、ダークエルフだったのか」
「ダーク!?」
なにが気にくわないのか、レッドが語気を強めてオレを睨んだ。
「いやエルフか」
「そーゆーオマエはなんだ。アル・ヴァイト」
なんかアクセントが変じゃね?
こいつ、もしかしてアルバイトを名前と間違えてるのか?
なんだそりゃ。
「いやアルバイトってのはな――」
「オマエの真名は分かったから。――そうそう真名を口にするもんしゃない。どこに耳が見るか分からないだろ。不用意なヤツだな」
「いや、だからな――」
「おれも色々と見て来てるけど、オマエみたいなのは初めて見る」
そりゃ、そーでしょうよ。
お前はエルフで、さっきの金髪貧乳も多分エルフで、ファンタジー界の超メジャーどころで羨ましいね。
オレはなに?
怪奇サメ男か。
海岸近くならまだしも、なんだってダンジョンの森の奥でサメなんだよ!!
場違いもいいとこだろ。
「あ~、もう、めんどくさいな~」
オレはサメのマスクを脱いで見せた。
途端。
レッドが息を飲んだ。
「オマエ。スキンチェンジャーだったのか!?」
スキンチェンジャー?
スキンチェンジャーってなに!?
「ハァ?」
「そうか。自分でも知らないんだな」
「知らないってなにを?」
「いにしえに滅び去った、幻の一族の生き残りに出くわすなんて」
なんか知らないけど、感動してる。
「オマエはスキンチェンジャーだ、アル・ヴァイト」
「はぁ!?」
何を言ってんだ、こいつ。
「そのスキンチェンジャーってのは、なに?」
「スキンチェンジャーは大昔に滅びた変身能力者のことだ。オマエの種族だよキラーバイト」
「キラーバイト?」
「そう。キラーバイト」
「キラーバイトって、なに?」
「ここでの通り名さ」
「通り名? 通り名ってなに」
「こんな危険な場所で、頻繁に真名を名乗る訳にはいかないだろ。だから、ここでは通り名が必要なんだよ」
何個もピアスを開けてる、長い耳をいじくりながらレッドが言った。
「つまり、お前のレッドって名も通り名ってことか?」
「その通り。スキンチェンジャーってのは勘もいいんだな」
いや、分からない訳ないだろう。
って、
「だからスキンチェンジャーじゃ⋯⋯」
人が話してる最中に耳に手をやって急に黙りこくりやがった。
「分かった、急いでそっちに向かう」
「行くぞキラーバイト」
「行くってどこに?」
「次の現場さ」
「次の現場って、まだ他にもあるのかよ」
「あたりまえだ」
当たり前って、そんなの聞いてないぞ。
レッドに手を引かれて、オレは次の現場へと向かった。
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