第3話


 ♠



 おい、ちょっと⋯⋯。


「もういい、もう、いいだろ」

 オレはターバンを羽交はがめにして攻撃をやめさせた。

 金髪貧乳は弓を斬り払われ、ターバンの連撃に剣を抜く暇もない程追い詰められていたからだ。

 このままだと確実に怪我をする。

 ただのお遊びで大怪我とかシャレになんないだろ。

「何考えてる、オマエ」

「それはこっちのセリフだ」

 なに興奮してんだ、こいつ。

 変なヤツ。


「おら、行けよ貧乳。お前等の負けだ」

 その瞬間。

 切断された弓を手に、茫然とたたずんでいた金髪貧乳がキッと眼を怒らせてオレを睨んだ。

「また言ったな!!」


 は?


「また貧乳と言ったな!!」

 えっ、あっ!?

 気にしてたのか。

「絶対に許さない。やれ!! ゴーレム」

 動きの止まってた土人形の太い腕が、うなりをあげて振り下ろされた。

「このバカ!! あとちょっとだったのに」

「悪い。気にしてるとは思わなかった」

「うっさい、ダマれ!! この化け物が」

 化け物って、このサメの顔かぶり物なんだけどな~。


「どーすりゃいいんだ?」


 オレはターバンに訊いた。

「ゴーレムを止めるには、術者を倒すか、ゴーレムのコアを破壊するしかない」

「術者を倒す、あの貧乳女の事か!?」



「また言ったな、キーッ」



 この距離で聞こえるのか?

 耳がいいね~。

「アンタがバカをやったせいで、せっかくのチャンスが台無しになった」

「悪かった」

 オレは土人形の攻撃を避けつつ器用に頭を下げた。

「で、あとは?」

「言ったろう、ゴーレムの核を破壊するんだよ」



 ゴーレム?



 この土人形、ゴーレムなのか!?

 なんか想像とちっが~う。

 ゴーレムってもっとこう、ゴツゴツしてて、石の質感があって、動きが鈍重で⋯⋯って、危ねえ。

 オレは咄嗟にターバンを抱きかかえて後ろに跳んだ。

 VRだけど、あんなので殴られたら痛いと思う。

 実際に鎧騎士とパチモンガンダルフは殴ってのばしてる。




 ⋯⋯あとで変なペナルティつかないよな?




「離せ、このバカ」

 オレを蹴飛ばす勢いでターバンが腕のなかでもがいた。

 ハイハイ、オレだって野郎なんか抱きしめたくなんてないさ。

 どこかを傷めたのか胸元を押さえてるターバンに、

「大丈夫か?」

「なんでもない、それより前」

「っと」

 オレたちは左右に離れてゴーレムの攻撃を避けた。

「ゴーレムの核ってなどこにあんだ?」

「それが判りゃ苦労するか」

 このゲーム。

 とことんリアルにこだわってんのか、ステータスとかレベルとか、倒すためのヒントになるようなモノがなんも無い。

「いままでにゴーレムとぶつかった経験は?」

「数度」

「そん時ァ、核はどこにあった?」

「右肩、左肩、胸、頭頂部、額!!」

 オレは倒れてる鎧騎士の手から剣をもぎ取り、ゴーレムに斬り掛かった。


 重てえ。


 なんだこれ。

 コスプレの小道具って、こんな重いの!?

 どうりで動きが鈍いわけだよ。

「おりゃ」

 うぉっ、変な感触。

 金属の板を砂利が擦るような、妙にざらついた斬り応え。

 左肩なし。

 右肩は!?

 ターバンの矢が貫いてるがゴーレムは動き続けてる。

「オレは胸、お前は額」

「オマエって言うな」

 お互いに名前知らねえだろ。

 ゴーレムの攻撃をかいくぐったオレは、その胸に剣を突き立てた。


 凄いな。


 間近に寄ると、土の臭いがムンムン漂ってくる。

 それに、この圧迫するような重量感。

 三メートルはある本物の土人形の重さが腕に伝わって来るようだ。

 まずい、このままだと押し潰される。

 オレは剣をゴーレムに突き刺したまま、その股を潜って背後に回った。

 振り向きざまに振り下ろされた巨大な拳を、さらに数度転がってけたオレは、距離を置いてゴーレムを見た。

 眼も鼻も口もない、泥団子のような頭には数本の矢が突き刺さってる。

 でも、ゴーレムは健在だ。

 こっちも空振りって訳だ。



べ!!」



 オレは中腰に構え、両手を組んで叫んだ。

 ターバンがオレを見るなり走った。

 オレの手を踏み台にして高く跳ぶと、空中で一回転しゴーレムの肩に乗り、その脳天に剣を突き立てた。


 やったか!?


 一瞬、膝を突き掛けたゴーレムは両腕を振り上げ、肩の上に乗ったターバンを、その大きな拳で潰すように挟み込んだ。


 ガチン


 と、火花を散らして撃ち合わされた拳から、すんでで逃れたターバンかオレの横に飛び降りた。


 どうすりゃいい!?


 どうすりゃ斃せる!?


 何か見落としはないか!?


 ゴーレムの猛攻をかわしながら、オレの頭はブンブンと音を立てて回転した。

 金髪貧乳が呪文を唱えて、それからどうなった。

 土が盛り上がり、アイツはどこから出て来た。

 円を描くようにクレーターが広がり、そこにある土に小石に落ち葉や小枝を巻き込みながら、アイツはどうやって⋯⋯。



 拳だ!!



 アイツは右の拳から生まれたんだ。

 オレは地面に落ちてるチャッキーのナイフを拾うなり、腰を落として振り下ろされる右拳目掛けて突き出した。


 ズシンと内臓に響く衝撃だった。


 アメフト部のタックル?

 いや、相撲部のぶちかまし?

 いや、それも違う。

 交通事故だ。

 交通事故だよ、これ!!

 強烈な打撃でふっ飛ばされたオレは、ゴロゴロと転がってうつ伏せせに倒れた。




〈いっ⋯⋯、テェェェェェェ〉




 息が出来ない。

 はあああぁぁぁぁ、ダメだこれ。

 全身が引きつけを起こしてる。

 なんだよ、これ。

 ゲームなのに、なんでこんなに痛えのよ。

 肋骨折れてない、肋骨。

 それに背骨も⋯⋯。

 ああああああ、もうダメ。

 全身骨折だ、全身骨折。

 どーなるのこれ、保険おりるの!?


「待ってろ」


 なにを!?

 背中に何かが触れた。

 痛みで首も動かせないから見えないが、気配でターバンが側にいるのが分かった。

 なにをやってる。

 なんだ!?

 なんか身体が軽い。

 背中が、胸が、全身から痛みが退いていく。

「これで大丈夫だ」

 大丈夫。

 嘘だろ。

 こんな大事故にあって、大丈夫な人間がどこにいる。

「さっさと起きろ」

 ぺしりと頭を叩かれた。



「てめえ、けが人になにしやがる」



 って、あ!!

 起きれた。



 ♠



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る